卒業8(謝恩会) | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

エレベーターは、静かに、もとの喧騒に戻っていく。

きっと2分くらいだったと思う。でも私にはとても長く甘い時間だった。

静かに身体を、そして、いつの間にか恋人繋ぎになっていた手を離す。

 

「たぶん、仲良したちは開いたところで待ってると思うよ」

 

「いや、先に行っていると・・・」

 

「どうかな?」

 

 

エレベーターの扉が開くと、そこには同期の面々の顔があった。

 

「sanaちゃん!」

 

「ほらビンゴだった、ね?」 

そう言って、私の肩をぽんとたたくと、先生は「まっちゃん何やってたんですかー、遅いー」

という男子学生のグループのほうへ歩いていった。

 

 

私は、同期たちに囲まれる。

「sanaちゃん、大丈夫だった?・・・なんか、何かあった?。ほら、下でエレベーター上がるの見てたら3階に止まらないし、上のほうまで行っちゃうし、下りてこないし。」

「なんか、悪ノリしすぎたかもって、今話してたところで」

 

「・・・・うん。大丈夫」

 

「なんかあった?」

 

「・・・うん」

顔がほころんだのを同期が見逃すはずがない。

 

「言った?ねぇ、言えた?」

 

「うん」

 

 

「で、で何て何て??、まっちゃん何て言った?」

同期たちの今日一番にキラキラした目が迫ってくる。

 

・・・言えない。

何でも言い、色んなことを共有してきた同期たちに、私はとっさに嘘をついた。

 

「ありがとうって。地元に帰っても頑張れよって」

 

「あーーなにーー、そうきたかーーーー」

「でしょうねーー。最後までやっぱりまっちゃんだわーー」

「最後の最後で。密室のエレベーターで。もぅ、うそーーーーー」

 

ごめん。

 

 

「で、何で13階に行ったの?」

 

「えっと・・・あの、テキトーに押して、トイレって。」

 

「まさか開延長で待ってたとかいうオチ?」

 

「うん」

 

「もうっ、何じゃそれ。カラオケで文句言ってやる。行こう!」

 

 

 

これが初めての「共通の秘密」になった。