エレベーターは、静かに、もとの喧騒に戻っていく。
きっと2分くらいだったと思う。でも私にはとても長く甘い時間だった。
静かに身体を、そして、いつの間にか恋人繋ぎになっていた手を離す。
「たぶん、仲良したちは開いたところで待ってると思うよ」
「いや、先に行っていると・・・」
「どうかな?」
エレベーターの扉が開くと、そこには同期の面々の顔があった。
「sanaちゃん!」
「ほらビンゴだった、ね?」
そう言って、私の肩をぽんとたたくと、先生は「まっちゃん何やってたんですかー、遅いー」
という男子学生のグループのほうへ歩いていった。
私は、同期たちに囲まれる。
「sanaちゃん、大丈夫だった?・・・なんか、何かあった?。ほら、下でエレベーター上がるの見てたら3階に止まらないし、上のほうまで行っちゃうし、下りてこないし。」
「なんか、悪ノリしすぎたかもって、今話してたところで」
「・・・・うん。大丈夫」
「なんかあった?」
「・・・うん」
顔がほころんだのを同期が見逃すはずがない。
「言った?ねぇ、言えた?」
「うん」
「で、で何て何て??、まっちゃん何て言った?」
同期たちの今日一番にキラキラした目が迫ってくる。
・・・言えない。
何でも言い、色んなことを共有してきた同期たちに、私はとっさに嘘をついた。
「ありがとうって。地元に帰っても頑張れよって」
「あーーなにーー、そうきたかーーーー」
「でしょうねーー。最後までやっぱりまっちゃんだわーー」
「最後の最後で。密室のエレベーターで。もぅ、うそーーーーー」
ごめん。
「で、何で13階に行ったの?」
「えっと・・・あの、テキトーに押して、トイレって。」
「まさか開延長で待ってたとかいうオチ?」
「うん」
「もうっ、何じゃそれ。カラオケで文句言ってやる。行こう!」
これが初めての「共通の秘密」になった。