4月10日と14日、シアター・アルファ東京で上演された「舞台『な女』~夢と現実の狭間~」に行ってきました。


公演期間は4月10日~21日、A~Dの4チームでキャスティングされ、前半(~14日)がA・Bチーム、後半(17日~)がC・Dチームの公演となっているところ、田辺奈菜美ちゃんが出演したA・Bチームの初日と千秋楽の公演を見たことになります。以下はネタバレ注意です。

まずは、ネットに掲載されている作品概要等を載せておきます。
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本公演は不思議な力に翻ろうされていく女たちの人間模様を描いたオムニバス舞台!
【止まらない欲望】【狂気とも感じる究極の愛】の行く末とは何か…。笑いあり、涙も交えた心温まるストーリーです

オムニバス作品のあらすじ(上演順に)
『おどし玉』…ブラックなテレビ制作会社で働く莉乃。上司にしごかれながらも純粋に夢を持って、懸命に働いていた。お正月特番の収録を終えた深夜、謎の女性から“おどし玉”を手に入れる。
『ニコイチ』…学園のマドンナ的存在であるレナとユナは、服装から髪型まで全てが同じ“ニコイチ”として名を知られており、いつも一緒に行動している。そんな“ニコイチ”に憧れる朋美の想いが、現実になり…。
『運貯め師』…結成8年目のお笑いコンビであるドラゴンベイビー。オーディションに落ち続ける数年間を過ごし、限界を感じていた。そんな時、とある神社に迷い込み、運貯師と名乗る女性に出会う。

ファンタジーホラー調の短編現代劇3本をオムニバスにした作品。テンポ良くストーリーが展開していくので、見やすく楽しめるお芝居でした。内容は不思議な出来事を通して人間が持つ欲望や妬み、執着を描き出していて、実はなかなか怖いお話。「世にも奇妙な物語」のようなテイストの演劇でした。
3つの短編は、登場人物が一部重複する同じ世界線の中で展開していくので、その関連性が立体的に感じられ、全体を繋ぐ謎めいたストーリーテラー愛露(めろ)の存在が物語全体のギミックになっています。

田辺奈菜美ちゃんは3つの作品の軸になっている『運貯め師』の主演(したがって、全体の主演)で、漫才のツッコミでネタづくりを担当するドラゴンベイビーの希を演じました。お気楽な相方・福子の自由さに振り回され、売れない焦りから感情をぶつける場面では、責任感や真面目さの裏返しが感じられ、福子の方がウケているの知った時も嫉妬よりも自信を失っていく様子が見え、運貯め師のルーシーが貸す「ラック」に依存していく展開でも、がんばってきた糸が切れてしまった様子が見えて、真っ直ぐな希の性格が浮かび上がる好演でした。
座長としてのカーテンコールに立った時の表情も、充実した様子が見えて良かったです。
一方、木村葉月さんが演じる福子は、明るく憎めない愛されキャラで、確かにこういう子が芸人なら人気が出そうだと思えるキャラクターでした。一方で、やる気を失った希に「昔のように漫才をやろう」と働きかける真っ当さを見せ、希と福子の友情が前向きな明るさと、作品全体の後味の良さを生み出していました。笑いもあり、ほろりとさせる場面もあって、ドラゴンベイビーは素敵なコンビでした。

もう一人のメインキャストの女優・羽藤萌結さんは、『おどし玉』では清楚な人気歌手のMisaを、『運貯め師』ではドラゴンベイビーのライバルとなる女芸人のめぐみを演じました。千秋楽の挨拶でご本人が「『おどし玉』では殺される役、『運貯め師』では殺す役…」と言っておられたとおり、いずれもストーリーを大きく展開させる引き金を引く役でした。
とてもスタイルの良い女優さんなので、『おどし玉』の最初にMisaとして舞台に立つ様子がステージ映えして、スターらしさを感じました。Misaがスターに見えることは、このストーリーではとても大事です。
羽藤さんは以前、『ドールハウス』でななみんと共演しておられたのでXでフォローさせていただいており、今回、千秋楽の物販でご挨拶することができました。舞台での印象よりも可愛らしい感じの方でした。
また、以前、ななみんと共演した「日之出神社に夜は来ない」で倉稲魂命を演じた鈴原早織さんが、巫女の格好をした神秘的な存在であるルーシー役を、良い意味でマンガ的なキャラクター造形で怪演されていました。鈴原さんも二役で、『おどし玉』では女プロデューサーを演じて「できる女」そのものでした。この落差もさすが。

AチームとBチームをそれぞれ1回ずつ見たことになりますが、キャストが変わると同じ役でも違う人物が生まれるという、ダブルキャストの面白さを感じました。
誤解をおそれずにざっくり言うと、Aチームは登場人物のキャラクターがハッキリし、登場した時から尋常でない空気が見える印象、Bチームは一見すると普通の人が実は壊れている怖さがじわじわくる印象でした。
例えば『おどし玉』の莉乃、Aチームの稲葉ななこさんは最初から野心や抑えつけられた実力が見える感じ、Bチームの鈴宮来菜さんは周囲に気配りしながら働いている普通の人だけど実は不満や実力がある…という感じ。
ストーリーテラーの愛露は、Aが「造り物」めいた山本耀さん、Bが無垢な感じの柚樹蒼さんで、これもかなり違ったタイプでした。
ところで、愛露の正体は何か…?
作中で答えは出ないので、見た人の解釈に委ねられているようです。
初日に見た時は天使とか悪魔とかの神秘的な存在かと思ったのですが、千秋楽はAIかも…と思いました。
だから、人間の感情を知りたいのかな…と。


【出演】
A・B 田辺奈菜美、木村葉月、羽藤萌結、長濱慎
[A]鈴原早織、稲葉ななこ、原千亜紀、山本耀、田中万葉、朝倉奈珠希、永瀬美陽、庄司友菜、成田匠 
[B]鈴宮来菜、中村彩愛、涼川夏音、杏乃々香、小西萌子、阿部凜、石水はる、柚樹蒼、飛見龍哉、星来

演出・脚本:山本梨央 企画・制作:Raki
主題歌:POPPiNG EMO