2月29日、紀尾井ホールであった「billboard classics 石田組×鈴木愛理 ―石田組から鈴木愛理への挑戦状―」に行ってきました。愛理ちゃんがMCをつとめているNHK・Eテレの番組「クラシックTV」での共演がきっかけになって実現したというコンサートです。

石田組のコンサートに愛理ちゃんがゲスト出演という形なので、そもそもジャンル的にはクラシックで、石田組のファンもたくさん聞きに来られるコンサート、会場もクラシックのホールとして名高い紀尾井ホールでした。
最初に2曲、石田組の演奏がありました。チャイコフスキーの「弦楽セレナーデより 第1楽章」をドラマチックかつ繊細に、ピアソラの「リベルタンゴ」をスリリングに、石田組の演奏は柔らかな美しい音色で、クラシックに詳しくない私でもちょっと聞いただけでレベルの高さがわかりました。微かな音や演奏者の息遣いまでが聞こえてくるような、ホールの音の響きも素晴らしかったです。
組長こと石田泰尚さんは背も高く、迫力のある硬派なビジュアルながら、とてもシャイな雰囲気で、客席に背を向けたまま「こんばんは…今日はありがとうございます」と言葉少なに挨拶し、「それでは、歌手…、どうぞ…」と愛理ちゃんを呼び込みました。
オフショルの黒いドレス姿が美しい愛理ちゃんが登場して、最初に久保田早紀さんの「異邦人」を透き通った声でのびやかに歌い、続いて椎名林檎さんの「おとなの掟」をミュージカルを演じるように歌いました。「おとなの掟」は「一番大好きなドラマの主題歌」だと言い、テレビドラマ「カルテット」の主題歌だったので、その設定からも石田組と一緒にやるのにぴったりの曲だと愛理ちゃんがリクエストしたとのことでした。
続いて、愛理ちゃんのオリジナル曲から、アルバム「26/27」に収録された吉澤嘉代子さん作曲の「笑顔」を披露。優しい旋律に歌声が溶け込んで、寄り添うように歌詞が伝わる演奏でした。絢香さんの「三日月」は、2016年に矢島舞美ちゃんとやったアコースティックライブなど、これまでに何度か歌ったことのある楽曲で、その時も上手いと思いましたが、歌手として格段に成長した愛理ちゃんが、弦と一緒に優しく織り上げる素晴らしいパフォーマンスでした。
MCでは、1曲終わるごとにニコニコして見つめながら、石田さんを喋らせようと絡んでいく愛理ちゃんと、目を合わせようとせず、喋らずにすぐに楽曲を披露しようとするシャイな石田さんの掛け合いが面白く、それぞれにキュートで良い味を出していました。
「これ、私と石田さんの曲らしいですよ」と愛理ちゃんが話した「Beauty and the Beast」は、その歌声と石田さんのバイオリンがデュエットするように展開していく趣向で、コラボらしい見せ場の一つでした。オリジナルのディズニー楽曲を歌うアーチストのようにダイナミックな愛理ちゃんの歌声も、普段とはまた違う魅力でした。

15分間の休憩を挟んでの第2部。
石田組が最初に演奏したのは、映画音楽の「ニューシネマパラダイス」。エンニオ・モリコーネの甘く切ないメロディが、精細な弦の響きでさらに魅力的に聞こえました。そして、次の「紫の炎」が良かった。もともとディープパープルがクラシック的な要素を取り入れていることもあり、演奏そのもののカッコ良さ、ハードロックの名曲が弦で巧みにアレンジされる楽しさはもちろん、ソロパートでメンバーの紹介を兼ねていることもあって、バンドがセッションで作り上げていった楽曲の構成が解剖されるように解き明かされていく感じもあり、とても面白かったです。
ここで、石田組の「組員」の紹介がありました。漢っぽい不器用さを見せながらも、ユーモアも交えた組長の紹介が楽しかったのに加えて、紹介される経歴などから、組員のみなさんが一流のオーケストラに所属している錚々たる演奏家揃いだということがわかりました。最後に紹介された「特別組員」の愛理ちゃんの楽しそうな様子が見られたのも良かったです。

愛理ちゃんが参加した楽曲は、第2部はすべて愛理ちゃんのオリジナル曲でした。「DADDY!DADDY!DO!」「光」と、あいりまにあにとってはお馴染みの楽曲を、贅沢な演奏とともに楽しむことができました。MCで愛理ちゃんも言っていましたが、1曲終わるごとに終わってしまうのが惜しくて、苦しくなってしまうほど。
どの曲も素晴らしかったのですが、コラボの面白さという点では「夢幻クライマックス」が最大の聞きどころでした。もともとベートーヴェンの「月光」やショパンの「革命のエチュード」などのフレーズを使った曲ですが、今回はバイオリンを活かして、パガニーニやメンデルスゾーンに置き換えてアレンジしており、石田さんのバイオリンの力もあって異次元のカッコ良さでした。
そして最後は、最新曲「最強の推し!」を演奏。弦楽でのアレンジが意外なぐらいにマッチし、会場もクラップで楽しく盛り上げて本編を締めくくりました。歌う前のMCで、今回販売されたグッズのアクスタの「使い方」を含め、愛理ちゃんが石田組のファンのみなさんに「推し文化」を説明する様子も楽しかったです。

アンコールでは、最初にクイーンの「I was born to love you」を石田組のスケールの大きな演奏で披露。二度目のアンコールでは愛理ちゃんも一緒に登場して「糸」を歌いました。とても心に沁みる歌で、思わずジーンときてしまいました。
ダブルアンコールでは、それまで組長が着ていた特攻服の衣装を愛理ちゃんが着て登場し、組長が背中に「模範囚」と書かれたTシャツを着て出てきました。バイオリンの顎あての部分を鷲掴みで持つ組長の「厳つい」スタイルも印象的で、こうしたビジュアルの楽しさも感じさせるコンサートでした。

石田組の繊細な弦の響きに、ある時は軽やかに乗り、ある時は馴染むように溶け込む愛理ちゃんの歌声。歌と伴奏ではなく、石田組の一員として弦と同じ立ち位置で、歌でコラボしている印象のステージでした。
また、愛理ちゃんとのコンビがとても良い感じだった石田組長。ふわっと立ち上がって滑らかに音を紡ぐバイオリンが超一流で、すっかりファンになりました。

【1部】
01.弦楽セレナーデより 第1楽章 (曲:P.L.Tchaikovsky)
02.リベルタンゴ(曲:A.Piazzolla 編:近藤和明)
03.異邦人(詞・曲:久保田早紀 編:松岡あさひ)
04.おとなの掟(詞・曲:椎名林檎 編:山下康介)
05.笑顔(詞・曲:吉澤嘉代子 編:萩森英明)
06.三日月(詞:絢香 曲:西尾芳彦、絢香 編:萩森英明)
07.Beauty and the Beast(詞:H.Ashman  曲:A.Menken 編:松岡あさひ)

【2部】
08.ニューシネマパラダイス(曲:E. Morricone 編:近藤和明)
09.紫の炎(曲:R.Blackmore, J.Lord, I.Paice, D.Coverdale 編:近藤和明)
組員紹介
10.DADDY!DADDY!DO!(詞・曲:水野良樹 編:山下康介)
11.光(詞・曲:橋口洋平 編:山下康介)
12.夢幻クライマックス(詞・曲:大森靖子 編:萩森英明)
13.最強の推し! (詞・曲: 大石昌良 編:山下康介)

ENC
01.I was born to love you(曲:フレディ・マーキュリー 編:松岡あさひ)
02.糸(詞・曲:中島みゆき 編:萩森英明)

 

「夢幻クライマックス」

「最強の推し!」