3月16日~18日、「劇」小劇場であった「ゲートシティーの恋」に行ってきました。
元ONEPIXCELの田辺奈菜美ちゃんと傳彩夏ちゃんが主演なので、発表になってからずっと楽しみにしていて、行ける限り行こうと思ったのですが、仕事の都合で結局、前半の3公演の観劇となりました。
以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。

まずは、公式に掲載されたあらすじを掲載しておきます。
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環境汚染された近未来の都市に、遺伝子選別されたエリート達が暮らす壁に囲まれた「ゲートシティー」がそびえている。シティを守る女性士官候補生・美博は、ゲートの外のスラムから、病の妹のため「いのちの盾」盗みにきた輝人と戦い、撃退する。しかし、輝人は美博に強く惹かれ、たびたびゲートに侵入するようになる……。

2016年の初演からこれまで3度再演されているドラマデザイン社の公演で、出演者は男性役も含めて全員が若手女優でキャスティングされた演劇です。「GATE」「CITY」の2チームによるダブルキャストになっていて、ななみんと傳ちゃんは「GATE」チームの主役を演じました。二人はもちろん、登場する女優さんたち一人ひとりの瑞々しい演技が素晴らしかったです。なお、ドラマデザイン社の作品には、2019年にななみんが沖縄戦を描いた「清らかな水のように」に出演しています。

「ロミオとジュリエット」をベースにした作品とのことで、有名なバルコニーのシーンでの二人の会話(下記。(『シェイクスピア物語』の翻訳から)が物語を読み解くカギとして、効果的に使われています。
ジュリエット「どうやってこの場所に入ってきたのですか。どなたの案内で来たのでしょうか。」
ロミオ「愛に導かれてやってきました。案内人などいません。しかし、あなたがどれほど離れていようと、そこがはるかな海に洗われている広々とした岸辺だとしても、私はあなたのような宝を求めて旅に出ます。」
ただ、ストーリー全体はロミオとジュリエットを意識しなくても、若い恋人たちの切ない恋の物語として見ればよいと思いました。完全な悲劇として終わる「原作」と少し違って、切ないけれど、未来につながる希望を感じさせるラブストーリーでした。
むしろ、感染症のまん延、格差と貧困、システムによる人間の管理など、今の現実社会と不気味にオーバーラップする設定が非常に印象的で、リアルでした。2016年の初演の頃には想像もできなかった、ここ数年の社会情勢の変化が、舞台設定に現実味をつけ加える結果となっており、今演じることで、これまでとは違った意味合いを持ったお芝居になった気がします。



輝人を演じたななみんは、ショートにした髪に大きな目と整った顔立ちがよく似合い、まるでアニメの主人公のような美少年でした。
スラム化し、周りが全て敵という過酷な世界で幼い頃から暮らしているため、活発で、少しガサツなところがありながらも、「美博のカメラ」や「星の瓶」のエピソードからも窺えるピュアで優しい気持ちを持った少年を見事に演じていました。今回もたぶん普段の自分とは違う役だったと思うので、いっぱい努力をしたのだろうと思いますが、本当に、可愛くてカッコいい「男の子」だったので、今後、大きい舞台でななみんの少年役を多くの人に見てもらう機会があるといいなと思いました。
劇中、歌とダンスで表現するミュージカルのような演出が織り込まれており、久しぶりに大好きなななみんの歌が聞けたので、とてもうれしかったです。柔らかく伸びやかな響きの歌声は変わらず、さらに力強さが増している感じで、歌い始めた途端、とても存在感を感じました。「これ、本格的なミュージカルもいけるんじゃないか…、でも、やっぱり、ライブで歌を聞きたいな…」等とあれこれ思いを巡らせたところです。
そして、ななみんと傳ちゃんがステージの中央で並んで歌う姿に感動しました。解散から約9か月後にこの姿を見られたのは、ONEPIXCELのファンへの最大のプレゼント!キャスティングされた方に心から感謝です。

ヒロインの美博はお母さんがシティの上級官僚、本人も成績トップで士官学校に入学した優等生ですが、傳ちゃんが演じた美博は、自分の中に孤独を抱えつつも、しっかりもので芯が強く、優しくて誰からも好かれるヒロインというイメージでした。「愛や絆」といったシティが切り捨てた大事なものを心に持っている彼女だから、輝人や新川たちを惹きつけ、ノエルに慕われたのだと感じ、輝人との関係では、精神的にちょっとお姉さんっぽさも感じました。傳ちゃんは、初舞台とは思えない自然な演技で「美博」に命を吹き込んでいたように思います。
ONEPIXCELを応援してきたファンなので、初日は自分の中で、まだ、ななみんと傳ちゃんを見ている感じがあったのですが、2日目からは完全に輝人と美博を見ていました。そうすると、この若い恋人たちがとても愛おしく感じられるようになりました。
ぎごちなく惹かれ合っていく出会いの場面、心を通わせる音楽堂の場面、逃亡の中で一緒に暮らす決意を語る場面…、そして、輝人の中で生きることを望む美博の思い。瑞々しい恋に心を揺さぶられました。

二人の純愛を軸に、新川と沙里花の屈折した愛が絡み合う形でストーリーが展開していくのですが、準主役のこの2人をどう演じるかがこのお芝居の一つの鍵だと思いました。
川瀬莉子さんが演じる新川は、内に秘めた思いを吐き出し、爆発させるところに迫力を感じ、普段はそれを押し殺している印象でした。福永彩乃さんが演じる沙里花は、複雑な思いを抱え込んで自分では処理しきれなくなっている一方、「本当は純粋で、優しい子なんだろうな」と感じました。
旧式のアンドロイドという設定のノエルは、美博のキャラクターを描くうえで重要な役割を果たしていますが、池戸優音さんのノエルは、幼い頃から親がわりになって美博を保護してきた雰囲気を感じました。所有者に忠実なアンドロイドだからこそ、ラストシーンは涙なしには見られませんでした。
輝人の妹ひかり役は米倉ゆいさん。前半の諦観した雰囲気から、元気になった後の無邪気な姿の対比がよく出ていたと思います。美博が輝人に恋をしていると見抜いた時の「しっかりした妹」ぶりが印象に残りました。
輝人の仲間とシティの士官候補生が「GATE」「CITY」の2チームで交替するキャスティングでした。竹道星来さんの冬馬は、慎重だけどしっかりした感じ、西垣有彩さんのソラはお転婆で勝気な感じが出ていたと思います。士官候補生の方はキャラが出しにくいと思いますが、小柴怜奈さん、佐藤ひなたさんは前説でも登場して、客席をほぐす雰囲気を作ってくれました。
ドクターと篠宮上官も「GATE」「CITY」で交替ですが、小野成里佳さんの上官は軍人というよりは学校の先生、保護者の雰囲気が強く、藤村陽菜さんのドクターはシティ内では意外とちゃんと生活しているのではないかと感じさせました。ドクターが生まれた頃にはゲートがまだ作られていなかったという設定が台詞で語られますが、そうすると、社会のシステムとしてはまだ日が浅く、実はシティの体制は盤石ではないのかな…、などと考えました。

初日は「ななみんと傳ちゃんが出演する演劇」を見に来たという気持ちが強く、ストーリーを追いながら見ていた感じでしたが、2回目はストーリーに入り込むことができて、全ての登場人物がより生き生きと見え、台詞の中にあった伏線にも気づくことが出来ました。そして、3度目は、お芝居の中の世界にどっぷりはまり込んで楽しみました。演劇は複数回見ると、楽しみが何倍にもなりますね。
そして、これは想像でしかないですが、キャストさんたちも2日目以降は、初日の緊張感から解放されて演技をされていたのではないでしょうか。
ダブルキャストだったので、時間と費用に余裕があれば、「CITY」チームも見れば、さらに新しい発見があったかもしれません。また、自分は残念ながら見られませんが、日に日にお芝居が仕上がっていき、千穐楽には初日とはまったく別の魅力がみつけられたと思います。


輝人と美博たちとの時間を共有できた3日間、キャストがどんどん役に溶け込んでいって、登場人物が「そこに存在する」ようになるのだなと思いました。