こんなこともあるかも 8 | 伽藍堂は開店休業中

伽藍堂は開店休業中

いらっしゃいませ
取扱い商品:ドラッグストアでパートのおばちゃんをやっているばるたんの日記や昔々に書いた小説など
店休日:不定休…となっております

俺的にはかなりの『ヘタレデート』だった昨日の失態を挽回するために
一晩かけていろいろ考えた

実は既に仕事仲間には話してある
彼らは一様に驚いた様子だったけど
「そこまで言うなら応援するよ」と
口を揃えて言ってくれた

職場の上の人にも話してある

「場合によっては
 この仕事をやめても構わない」
そう言うと
「そこまで言うなら仕方がないなぁ」と
笑われた

まあ
前例はいくつもあるからね


彼女のお姉様にも
もちろん相談済みだ
お姉様からは
「仕事 クビになったら
 ウチで雇ってあげるから」と
とても温かい(のか?)お言葉を頂戴している

彼女のご両親とはまだ会ったことはないが
気に入ってもらえるように努力する所存である

これだけ周辺環境を整えてあるんだ
今日言わなかったらいつ言うよ?

仕事仲間の1人は
「そういうのは当たって砕けろだからね」
と笑顔で言ってくれた

俺に『砕けろ』というのか?
まあいい 
アイツはそんなヤツだから
悪気が無いのはわかっている

そんな風に
いろんな人達の思いを(勝手に)背負って
今日は彼女と”お家デート”を楽しむのだ

昨日留守の間に
”お掃除代行サービス”を頼んでおいたから
掃除は完璧だ

料理はできないから
ピザのデリバリーを頼むことにした
配達予定時刻まではまだ時間がある

冷蔵庫には缶ビールが冷えている


歯磨きは3回した
服装もバッチリ(のはず)
準備は万端

(今日の俺 頑張れ!)
自分に気合いを入れていたら
インターホンが鳴った

「こんにちは」
彼女の可愛い声が聞こえる

すぐさまドアを開けると
「あの…
 お昼はピザだとお聞きしたので
 カプレーゼとティラミスを持ってきました」
と笑顔で言うではないか

なんとも気の利くお嬢さんだこと
お兄ちゃんは嬉しいよ

とりあえず彼女の靴を靴箱に片付けておく


ピザのデリバリーも滞りなく受け取り
あとは2人だけの時間を堪能した
(って言っても大半は俺の仕事の話だったけど)

そしていよいよ”その時”が訪れた
俺が選んだ言葉は
「君の事が好きだ
 これから先の人生を
 ずっと一緒に過ごしたい

 だから結婚してほしい」という
教科書に出てきそうなベタなものだった

それでも彼女は十分に喜んでくれた



喜んでくれたのだけれど…

第一声は
「お仕事の方は大丈夫なのですか?」
だった

俺の仕事を考えれば
『こんなこともあるかも』…なのだけれど

「そんなことは心配しなくていいから
 君の返事を聞かせてよ」と尋ねると

「それはもちろん嬉しいのですが…
 本当に私でいいのでしょうか?」と
なんとも控え目に言うではないか


「君”で”いいんじゃなくて
 君”が”いいんだよ」
俺がそう言うと

彼女は大粒の涙をポロポロこぼしながら
何度も何度も
「ありがとうございます」と繰り返した

いやいや…
お礼を言うのは俺の方だし
てかまずはその「敬語」はやめようか



俺だって幸せになってもいいよね?
こんなことがあってもいいよね?




☆~*~★~*~☆~*~★~*~

それから少し経った
8月のある月曜日の午後
文英堂書店の近くにある定食屋で
少し遅めの昼食を取っているカップルがいた


テレビの情報番組の
芸能ニュースを見ていた女性が

「『ヤマカゼ』のショウくんが電撃結婚」という報道に
食べていた鯖の味噌煮を危うく喉に詰まらせそうになった

「え~っ!本当に!」
お茶を飲みながらそう言う女性は
ヤマカゼのショウくんのファンなのだろう
ショックを隠しきれない様子であった


「ショウくんって”赤い人”だよね?

 ほ…ほら
 ショウくんだって
 もうそういう事があっても
 おかしくない歳だし…

 雪絵にはオレがいるじゃん」
かなり的外れな言葉で
なんとか彼女を慰めようとする男性は

「そういう事じゃないの!
 冬馬さんは全然わかってないんだから!」
と理不尽に彼女に叱られて
「なんでオレが怒られるんだ?
 こんなことってアリなのか?」
と呟くのだった



【『こんなこともあるかも』完】