ある白昼夢 | りょうちんのブログ  ~思えば遠くへ来たもんだ~

ある白昼夢


私の名は美和。
大学生だ。
バイトをしながら、大学に通っている。
忙しいながらも、平凡で楽しい毎日だ。
実は、BLが趣味だったりする。
だれにでも大っぴらに言えることじゃないけどねw
バイトして、学校行って、友達と飲んで、たまにはコミケに行って。
うん、なかなか悪くないね。



バイト先の本屋に、よく通ってくる女の子がいる。
その子がチェックしているラインナップは、なんだかうちと趣味が合いそうな感じ。
ある日、ふとした会話からその子と意気投合してしまった。
彼女の名はモトコ。
将来は、BLの漫画家を目指しているらしい。
この歳でBLが分かって、しかも漫画を描きたいだなんて・・・なんて見所のあるヤツww
うちとモトコは、8つ歳が離れている。
まるで妹ができたみたい。
実家から離れたこの土地で、初めてできた腐友。
早口で、よく笑い、さっぱりしてる。
うん、カワイイやつだ。



一緒に漫喫行って、ジャンプキャラとBLの関係についてジックリ語り合ったり。
カラオケでアニソン歌いまくったり。
うちの部屋で、パソコンの動画サイト見て大笑いしたり。
モトコは、生活の一部というか・・・ほとんど家族みたいなw



とある休日、モトコが
「美和姉~☆ 遊園地いこーよ!」
と言った。
おまいは子供かいっ・・・うん子供かw
そうだね、うちら姉妹で休日に遊園地っていうのも、いいかもね。



今日はいい天気。
絶好のお出かけ日和り。
モトコはいつも元気だ。 石畳の上を走り回っている。
「m子ー あんまりはしゃぐとコケるよ~」
「美和姉ー 次はあれ乗ろうよ!」
絶叫系コースター。 観覧車。 コーヒーカップ。
ひと通り楽しんだあと、遅い昼食。
ゆったりとした日差し。 紅茶とアイスクリーム。 ピエロが奏でるアコーディオン。
そして、楽しそうなモトコがいる。
うん、日常のささやかな幸せって、こういうことなんだろうね。
なんだかうつらうつらしてきた意識。
そこへ、モトコの声。
「次はミラーハウス入ろうよ♪」



ミラーハウスなんて、ほんと久しぶりだ。
この不思議な空間は、心を少しだけ不安にさせる。
「美和姉ー こっちこっち」
「あはは、m子ヘンな顔」
「姉ちゃんもな!w」
「けっこう広いねぇ」
この、極端に陰影のない世界におかれると、空間だけでなく時間感覚も曖昧になってゆくかのようだ。
「あれ、m子ーー?」
モトコがいない。
「まったく、どこいっちゃったんだか」
少し歩いてみる。
自分たちがどちらの方向から来たのかも、よく分からない・・・・・。
前方に、鏡ではない向こう側に続く切れ目が見えた。
「よかった、出口だ」



足を踏み入れたその空間は、暗くて様子が良く分からない。
かなり広い部屋のようでもある。
突然、眩しい光が降り注ぐ。
今までに見たこともないような、あたりを埋め尽くすような光。
目を開けていられない。
その時、不意に流れ込んでくる、映像とイメージ。
長い、長い河。
はるか昔から、遠い未来へ。
鳴り響いてくる歌声。 私が好きなもの。
そう、人は、ただ生きているだけでは満たされない。
幼い日の私。 私を形作っている、いろんなもの。
成長したモトコの姿。 笑っている。 生き生きと輝いている。 どうか、そのままでいてほしい。
すべてが、いとおしい。
河に掛かる、いくつもの橋。
二重螺旋。
すべては、つながっている。
高く、光のほうへ羽ばたいてゆく鳥たち。



「っ・・・・・・」
ゆっくりと目を開けると、もう見慣れた鏡の迷宮。
よく見ると、通路の奥に外からの日差しが差し込んでいる一角がある。 出口だ。
「あ、お姉ちゃーん!」
その方向から、モトコが駆け寄ってくる。
「どこいってたんよ! もお、美和姉はほんっとのんびり屋なんだから」
・・・うん、カワイイやつだ。
ついさっきはぐれたばかりだというのに、なんだか照れ臭いような、変な感じ。
「美和姉? どうして泣いてるの・・・?」
急に心配そうな表情になるモトコ。
「ん? 何言ってるん?」
反射的に頬に触れると、意味不明な涙。
「え・・・何じゃこりゃ!?」
手で拭いながら、自分でも動揺してしまう。
「お姉ちゃん、大丈夫・・・?」
「ん・・・ m子に会えなくて寂しかったんじゃよ~」
私は、肩越しにモトコをギュッと抱きしめた。
「う・・・暑苦しいよ美和姉ww」



あたりは、もう夕暮れ。
今日は、不思議な1日だった。
「お姉ちゃーん、クレープ買って~」
「しょうがないなぁ」
黄昏と山吹き色。
モトコの笑顔は、どこまでも明るい。
うん、クレープ食べたら、うちの部屋に帰ってお茶にしようか。
たまには、こんな日もいいね。




劇終