AI(人工知能)を活用した内視鏡検査でがん発見率98%に!
【記事】
大腸がんは早期発見できれば根治できるがんだが、がんができる場所によっては検査で見つけにくいこともある。見逃しがないよう、AI(人工知能)を活用して診断精度を高めようという動きが医療現場で活発になっている。
大腸がんは、日本でもっとも多くの人がかかるがんだが、検診で早期に発見し治療すれば根治できる。ところが、大腸がんによる死亡者数は男性で3位、女性では1位と多い。その原因の一つに検診受診率の低さがある。便潜血検査の受診率は、地域差はあるものの、平均で男性44.5%、女性38.5%だ。
便潜血検査は、便に血が混じっていないかどうかを調べる、自治体や企業の検診で実施される検査だ。2日間検査する方法で、どちらかでも陽性なら、精密検査の大腸内視鏡検査が推奨される。大腸内視鏡検査は、肛門から内視鏡を入れて、カメラで腸内を写し観察することのできる検査だ。
大腸内視鏡検査には、S状結腸検査という、直腸の上のS字にカーブする部分まで内視鏡を入れる検査と、いちばん奥の盲腸まで観察する全大腸検査がある。
日本人は直腸とS状結腸のがんが多いこと、大量の下剤を飲まずに浣腸のみで比較的平易に検査ができることから今もS状結腸検査を精密検査としておこなう施設もある。しかし全大腸検査を勧める専門家は多い。
「全大腸検査は、まだ明確に死亡率を下げるという科学的根拠が少ないため検診としては保険適用になっていませんが、技術のある医師ならほぼ確実に有効な検査ができることがわかっています。多くの観察研究でも死亡率の抑制が証明されています。今後、日本を含め世界中で進む科学的根拠の高いランダム化試験の結果で証明されるでしょう」
そう話すのは国立がん研究センター中央病院内視鏡科科長の斎藤豊医師だ。内視鏡治療において全国屈指の実績を誇る。
「がんになる前の『前がん状態』や早期がんのポリープ、がんが粘膜にとどまっている病変のうちに見つけることができれば、内視鏡治療でほぼ根治を見込めます。便潜血検査では、上行結腸がんなど腸の奥についてはわからず、また早期がんは発見できません。S状結腸検査も腸の奥についてはわかりません。できれば50歳を過ぎたら一度は全大腸検査を受けるべきです」
4月に亡くなった、元プロ野球選手の衣笠祥雄さんも発見しにくい上行結腸がんだった。
医療者側は、診断力の向上を目指して、さまざまな研究を進めている。斎藤医師らの内視鏡科でも現在いくつかの研究を進めているが、そのなかで注目されているのが、「AIを活用したリアルタイム内視鏡診断サポートシステム開発」という研究だ。これは、大腸内視鏡の検査時に撮影される画像で、大腸がんおよび前がん病変をAIにより、リアルタイムに自動検知し、内視鏡医が病変を見つけるのをサポートするというものだ。プロジェクトを担当する同科の山田真善医師はこう説明する。
「研究の第1段階として、当科で診断された過去の内視鏡画像で診断のつけられた約5千例をAIに学習させて、新たな内視鏡画像を解析させたところ、がん発見率は98%でした」
山田医師らは、この結果を2017年7月に同センターの記者説明会で発表した。
がん発見率は、診断経験が豊富な医師や病院では診断精度が高かったが、医師の診断技術の差や、肉眼で見つけるのが難しい病変や発生部位によって診断精度にはばらつきがあり、24%が見逃されていたというデータもある。
大腸がんで手術を受けた人の約6%が、内視鏡検査を受けていたにもかかわらず、後に大腸がんになったという報告もある。その内訳は、検査の見逃しが58%、患者が来院しなかったのが20%、検査後新たながんが発症したのが13%、内視鏡でのがんの取り残しが9%だ。
「今までは肉眼での認識が難しかった平坦な病変や陥凹型というくぼんだ病変も、AIによる診断で精度が高まります」(山田医師)
現在までに約1万例を学習させ、今後は、同科を受診する患者の画像を使って解析する臨床試験に入る予定だ。19年に臨床での実用化をめざす。
「臨床試験の段階では当院でしか受けられませんが、今回の技術が実用化すれば、検査の精度が平均化され、がんの見逃しについては大きく減らすことができると思います」(同)
現在、AIに着目し診断精度の向上をめざす研究は他のさまざまな施設でおこなわれており、早期発見への貢献が期待される。
早期発見によるメリットは、からだに傷をつけずにがんが根治できる内視鏡治療が受けられることだ。
内視鏡治療は、検査に用いるのと同じ内視鏡のなかに治療器具を挿入するもので、スネアという輪でがんを締めつけて通電して切るEMR(内視鏡的粘膜切除術)と、粘膜下層に専用のナイフを入れて切り取るESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)がある。がんは一括で取ることが根治へ導くには重要であるため、2センチ以下の小さいがんはEMR、それ以上の大きさで粘膜にとどまっているがんの場合や、EMRでの一括切除が困難な場合はESDでの治療がおこなわれる。近年は熟練した技術をもつ医師のもとでは、がんが粘膜にさえとどまっていれば10センチを超える大きさでもESDでの治療が可能だ。
治療後、病理検査で完全に取りきれていると診断されれば根治となる。取りきれていない場合や、粘膜よりも下にがんが入っている場合は外科手術となる。近年ではおなかに数カ所穴を開ける腹腔鏡手術が普及し、直腸がんに対しては4月からロボット手術が保険で受けられることとなった。
「大腸がんは、内視鏡治療の適応にならない場合でも、外科手術で根治が大いに見込めます」(斎藤医師)
現在、各病院や大学、研究施設が新技術の開発にしのぎを削り、機器の性能と医療技術の向上をめざす。この努力と、検診受診率の向上が合致すれば、早期治療が期待でき、大腸がんの死亡率は劇的に下がるはずだ。
(文・伊波達也)
※週刊朝日5月25日号
。。。(記事抜粋)。。。