父の詩 | 夏原諒オフィシャルブログ「夏原諒ですけど・・・。」by Ameba

父の詩

昨日の父のお別れの会にご参列・献花いただきましたみなさま、本当にありがとうございました。

父のあの優しい笑顔が目に浮かぶようです。


ご挨拶で僕が朗読した父の詩に関して、お問い合わせが多かったので、ここに全文を掲載いたします。

この詩が書かれたのは今から13年前の2005年、東京大空襲からちょうど60年経った3月10日でした。


何かに発表する前提で書かれたものなのか、残念ながら今となっては確かめる術も無いのです。

しかし13年の時を経た今でも、父の言葉はいささかも薄れてはいない、むしろ戦後73年の時を経た今こそ、その重みは増しているように思えてならないのです。




   三月の祈り

 六十年前、弥生。
 雛人形たちも大勢焼けて世を去りました。
 声もあげずまばたきもせず折り重なって。
 優しい女の人たちよ
 もう雛たちが死なないよう
 毎日心を砕いてください。
 たくましい男の人たちよ
 もう女たちが泣かないよう
 毎日心を傾けてください。
 弥生三月桃の花に祈ります。

 たとえ戦火の下でも
 枝は芽吹き、花は莟をつけるのでした。
 たとえ地下壕の中でも
 少年も少女も白い歯をこぼれさせていたのです。
 たとえどんな切ない運命が
 瞬時にその光景をさらっていってしまおうと。
 六十年前の早春を忘れまい、と私は祈ります。
 六十年前に終わった
 あの戦争の最年少の目撃者・証言者として。

           加藤 剛