「太陽の門では、できれば、日本全国で泣いて頂きたいと思っていたんですが――」
「え? マジ? それ、ホント? 普通にヤバいんじゃないの? ボスは当然ハッピーエンドだと思ってるよ」
「ちなみにサムさん、さっきから人格変わってませんか?」
「あっしは酒が入ると、こうなっちまうのさ。だから、映画でもあんまり飲んでなかったっしょ。んでもって、今回はお涙頂戴で行くわけ?」
「誰もご存じないと思うんですけど、僕は自称、ブレイク寸前悲劇作家なんですよね……」
「そら、誰も知らんやろ。まあとにかく、あっしは、まずいと思うよ。その路線は」
「もちろん笑いも取りに行くつもりです」
「ミスター・ムラサキガミ。ちゃんと笑い、取ってくれるの? あんたの授業じゃ、学生さん、ほとんど笑わないそうじゃん」
「うちの学生さん、笑わないんですよ。他の非常勤先では笑ってもらってるネタなんですけどね」
「心配だなぁ。顔見たらわかると思うけど、あっしは心配症なのよ」
「……でもですね、 第2回で悲恋って、書いちゃってるわけですよ。今さらハッピーエンドにしたら読者を裏切ることになってしまいます」
「そこまであんまり覚えてないんじゃないの? ラストまでまだ結構あるわけだしさ」
「カサブランカの前日譚という時点で、悲劇は既定路線なんです。他にどうしようもないじゃないですか」
「これから出てくるニューヨークの〇〇〇との悲恋もきついんだよなぁ、俺的には……」
「すいません、そこをなんとか」
「だけど、こんなに悲恋ばっかでいいのかな。アメリカ人って、ハッピーエンドが好きなんよ、基本」
「そりゃそうなんでしょうが、イルザさんとパリで出会った時にリックが幸せだったら、話がうまく繋がりませんよね?」
「そこをなんとかするのが、作家なんじゃないの? ピアノ弾きには分からないけどさ」
――オリオン、頼みます!
「その辺り、ボギーさんは何かおっしゃってるんですか」
「何も言わねえよ。全部忖度しなきゃいけないんだ。そういう世界だろ? まあ、こうなりゃ、いけるとこまで突っ走るしかねえんじゃねえの? どうなるか知らねえけどさ」
「サムさんも、ちゃんとフォローしてくださいよ」
「あっしにもっといい役くれるんなら、考えてもいいよ」
「わかりました」
「だけど、ボギーが明日出るかは、半々だろうね」
「え……もしかして、出ていただけない可能性もあるわけですか? そうすると、あの欄はどうなるんですか?」
「そんなこと、オイラは知らねーよ。とにかくミスター・ムラサキガミ。身どもは心配でならねえ。拙者とこんなにダべってて、大丈夫なんですかい? 時間がねえとか、いつもこぼしてるくせに、太陽の門の執筆、放っぽり出して、今日は東京都写真美術館の<時間を想像する>に行ってきたんしょ? それも、展示が充実してたから、2時間くらい。おまけにジムまで行ったよな? 余裕かまして、そんなことやってる時間あるのかよ。昨日からの赤穂出張じゃぁ、 PC のアダプターを忘れて慌てふためいて、仕事が徹底的に滞ってるってのに、よく行くわな。あちきの知ってるだけで、本業のも含めて4件も校正入ってるじゃん。他人事ながら、真っ青になるねえ」
「す、すみません、仕事します! でも、なんで、そこまで詳しく個人情報をご存知なんですか」