最上階の図書室からの眺めは、最高だと思う。
開け放った窓から涼しい風が入り込み、初夏の熱で上がった室温を少しだけ下げる。
ぱたん、と本が倒れる音がする。配架をしていた図書委員の谷秀太は、ふう、と息を吐いて倒れた本を元に戻した。
今日はとても静かだった。放課後の時間帯では珍しい。テスト期間だからだろうか。
普段は外から運動部の声が聞こえてくる。その声も今はまったく聞こえてこない。たまにちろちろと鳥の鳴き声が聞こえてくるだけだ。
配架を終え、窓際の席に座る。天気の良い日はここでぼうっとするのが秀太の日課だった。
ここはどこだろうか。見たことのない景色が眼前に広がる。
晴天なのに、気持ちが悪くなるような青空。うっすらと灰色に濁った雲。それとは対照的に、足元には無数の美しい花たちが風に揺られている。
風は吹いているのだろうが、皮膚を撫でるような感覚がない。元々触覚など存在しないような気分に陥る。
ここはどこだろう。もう一度考えてみる。懐かしいような、しかし嫌悪するような、不思議な感覚なのだ。
ふと、視界の隅で何かが動いた。慌てて振り返る。
そこにいたのは、髪の長い……
「谷くん?もう、閉館の時間だけど」
司書の小川明子が声をかけた。秀太は慌てて顔を上げる。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
先ほどの景色は夢だろうか?
時計の針は5時半過ぎを示していた。先ほどまで晴れていたはずの空は、いつの間にか灰色の絵の具で塗りつぶしたような雲に覆われていた。
「うわっ、すみません。すぐに帰ります」
「気を付けて帰ってね」
帰路を急ぐ秀太の頬を、初夏には似合わない冷たい風が掠めて通り過ぎていった。