世界的な人工知能(AI)の需要拡大が日本株を押し上げている。9日の東京株式市場で日経平均株価は一時節目の3万7000円を34年ぶりに上回った。相場上昇をけん引したのは8日に続きソフトバンクグループ(SBG)だ。傘下の英半導体設計大手アームの好決算と株高が好感されている。2023年に始まったAI相場は「第2幕」の様相を見せ始めた。

 

9日の日経平均は前日比34円高の3万6897円で終えた。前日比の上げ幅は一時400円を超えた。市場参加者の注目を一手に集めたのがSBGだ。一時1127円(15%)高の8477円を付けた。8日には732円(11%)上昇しており、1日半で2割近く水準を切り上げたことになる。時価総額が10兆円を超える大型株が2日連続で1割近く上昇するのは異例だ。

 

「アームは世界のAIの発展に最も貢献できる会社だと信じている」。8日、SBGの後藤芳光最高財務責任者(CFO)は2023年4〜12月期の決算説明会でこう強調した。

SBGの「虎の子」の変化は鮮明だ。19年末時点で保有資産の半分を占めていたのは中国の電子商取引(EC)大手のアリババ集団株だったが、足元ではAI関連の資産が大半を占めるという。SBGの資産の中身でも中国からの資金シフトが進んでいる。

アームが7日に発表した23年10〜12月期決算と業績見通しが市場予想を上回り、同社の株価は米株式市場で一時64%高と急騰した。

フィデリティ投信の重見吉徳マクロストラテジストは「去年AIに注目が集まった時と似た状況が起きている。期待で買われている側面はあるが、決算で実際の業績の伸びが確認されて実態を伴った株高となっている」と話す。

AI相場の「第1幕」がエヌビディアの急騰に代表される期待先行の買いだとすれば、今回の「第2幕」は好決算という実態を伴っており、内容が異なる。

2024年は生成AIの「実装元年」とも言える。米グーグルと韓国サムスン電子が生成AIの機能を搭載した高価格帯の新型スマートフォンを投入した。アームは半導体の回路設計の技術に強みを持ち、特にスマホ向けのシェアが高い。同社の技術は新型スマホにも採用されており、業績拡大につながるとの期待がアーム株の急騰にもつながった。

足元の日本株相場は、AI関連銘柄が主導するテック相場の傾向が鮮明になってきている。日経平均をバリュー株の影響が相対的に大きい東証株価指数(TOPIX)で割って算出する「NT倍率」は14倍を大きく上回り、前回AIによる株高が起きた23年7月以来の高水準となっている。

 

半導体製造装置メーカーのKOKUSAI ELECTRICは一時前日比95円(2%)高い4240円を付け、上場来高値を連日更新した。半導体関連では買いの裾野が中小型株にも広がっている。半導体のウエハー搬送装置を手掛けるローツェや半導体業界向けに人材派遣を手がけるUTグループなど、比較的地味な銘柄も足元では株価水準を切り上げている。

目先の最大の材料となりそうなのが、21日に控えるエヌビディアの決算だ。市場では「上昇トレンドは続くが、エヌビディアの決算が出れば材料出尽くしで一度上昇基調は落ち着く」(大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリスト)との見方が多い。

もっとも、9日の日経平均は午後に上げ幅を縮小し、SBG1社による日経平均の押し上げ幅は128円。仮にSBG株の上昇がなければ約100円安だった計算になる。日経平均が最高値を目指すためにはAI相場の勢いに乗るだけでは足りず、さらなる業績の上振れや株主還元の拡大といった好材料の積み上げが必要だ。