米国株相場が持ち直している。ダウ工業株30種平均は10月4日までの2日間で1590ドル上昇し、上げ幅は約2年半ぶりの大きさとなった。金融引き締め加速への警戒から9月末に年初来安値を更新したものの一転して買い戻しが優勢だ。株価回復は持続的なのか。市場関係者に聞いた。

インベスコ・アセット・マネジメント 木下智夫グローバル・マーケット・ストラテジスト「一時的な反発にとどまる」

――米株価が大きく反発しています。

「4日発表の8月の米雇用動態調査で求人件数は前月から110万人以上も減った。米求人サイト『インディード』などの民間調査ではすでに弱さがみえ始めていたが、公式統計で示され、労働需給の逼迫が緩むとの期待が出た。米連邦準備理事会(FRB)はインフレ動向を見極める上で賃金上昇率を重視している。市場では金融引き締め姿勢を強める必要が薄れたと好感され、株が買い戻された」

――株価の上昇は続きますか。

「S&P500種株価指数は9月末までに2021年末比で25%も下落している。これほどの弱気相場だと売りたい投資家はすでに売っている。商いが薄いなか反発が大きく出た面もある。株価は一時的な反発にとどまり、年末にかけ横ばい水準で推移するとみる」

「8月からの下落局面を先導したのはグロース(成長)株。長期金利の急上昇で将来の利益予想から算出する現在価値がしぼんだためだ。景気敏感株をみると景気後退(リセッション)を織り込むほどには調整していない。引き締めによる景気悪化で業績見通しが今後下方修正される可能性は高く、株価にはダウンサイドリスクが大きい」

――日本株はどうみますか。

「米国株が大きく下落しても日本株の下値は限定的だ。堅調な企業業績が想定されるためだ。インフレ率は3%ほどとまだ低く、日銀の大規模緩和継続で資金調達コストは抑えられている。9月の全国企業短期経済観測調査(短観)で示されたように、企業の設備投資意欲が強いことも製造業を中心に業績を下支えする」

(聞き手は今堀祥和)

野村証券 池田雄之輔チーフ・エクイティ・ストラテジスト 「FRBが冷や水を浴びせる展開を警戒」

――米国株の急反発の背景をどうみますか。

「市場予想を下回る結果となった経済統計への反応が、ポジション(持ち高)の偏りによって増幅された形だ。需給面では短期勢の売り(ショート)ポジションがかなり高水準まで積み上がっていたため、株価反発局面であわてて買い戻す動き(ショートカバー)が出たようだ。また米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数などの数値が市場予想を下回り、景気の減速基調が確認される内容となった。FRBの金融引き締めが順調に進み、タカ派姿勢がある程度和らぐという見方につながり、かえって市場がポジティブに反応した」

――株価反発の持続性はありますか。

「長くは続かないだろう。(13日の)消費者物価指数(CPI)発表前には減速するとみている。さらに今月中旬から本格化する米企業の決算発表では厳しい内容が多くなる見込みだ。ISM製造業景況感指数が悪かったことも7~9月の企業業績の悪化を示唆している。ここまでの株安は金利の上昇に伴う株式のバリュエーション調整が主因だったが、今後は企業業績の低迷も株安要因になる」

「しばらく反発局面が続いたとしても、FRB高官のなかで株高をいさめる発言が出てくるのではないか。FRBは株価の面からも景気にブレーキがかかることを問題視しておらず、むしろ好ましいと考えている向きもある。ジャクソン・ホール会議でパウエル氏の口から出たようなタカ派発言が、市場の楽観論に冷や水を浴びせる展開にも警戒が必要だ」