米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表を受けた21日の米株式市場は不安定な値動きだった。ダウ工業株30種平均は米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の記者会見中にいったん上昇に転じたが、取引終了時間にかけて再び売りが膨らみ、マイナス圏で終えた。ウォール街は景気後退シナリオへの備えを急いでいる。

 

小幅高で始まった21日の米株相場は、FOMCの声明公表後に下げに転じた。今回の会合で通常の「3倍速」となる0.75%の利上げを決めることは織り込み済み。やや驚きとなったのは経済・金利の見通しだった。政策金利が2022年末までに4%を超えるシナリオが提示された。11月の会合で0.75%、12月は0.5%の利上げを示唆する内容で、事前の想定より「タカ派」的に映ったのだ。

ここから意外な底堅さをみせた。売り一巡後にダウ平均はプラス圏に浮上したのだ。「過去1年間、FRBの政策決定があった日は、通常、株価が上昇するか、少なくとも横ばいで推移していた」(米運用会社インベスコのストラテジスト、クリスティーナ・フーパー氏)。こうした経験則はトレーダーの間で広く共有されていたのだろう。記者会見中にいったん買い戻しが優勢となった。

ところが会見が終わると経験則は通用しなくなっていた。「トレーダーたちはパウエル氏の不退転の決意を改めて理解した」。米ミラー・タバックのストラテジスト、マシュー・マリー氏はこう解説する。ダウ平均の終値は前日比522ドル安の3万0183ドルとなり、6月20日以来の安値をつけた。ほぼ全ての業種でマイナスとなり、株式投資家にとっては「逃げ場」のない状態だった。

過去の記者会見では、市場がパウエル氏の発言を都合良く「ハト派」的に解釈する場面がみられた。たとえば7月のFOMCでパウエル氏が「利上げ速度はデータ次第」と強調すると、市場参加者は「インフレ率の鈍化とともに利上げ停止時期が早まる」「景気を殺すような無理な引き締めはしない」と受け止め、株式は買われた。

パウエル議長は今回、市場に「ハト派解釈」を許すような発言をほとんどしなかった。JPモルガンのエコノミスト、マイケル・フェローリ氏によると、同氏は記者会見中、今後起こりうる経済の痛みに6回も言及した。さらにインフレ沈静化まで利上げを続けるとした8月下旬の国際経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)からメッセージは何も変わっていないと強調した。

インフレを抑えながら景気後退を回避する「ソフトランディング」は可能かどうか――。市場関係者や学者の間では長らく論争が続いてきたが、パウエル氏が今回、その実現可能性が低下していると認め、弱気派は勢いづく。「債券王」の異名を持つ著名投資家ジェフリー・ガンドラック氏はわざわざ米テレビ番組に出演し「景気後退リスクは劇的に高まり始めた」と述べた。

将来の景気後退入りを前提とするなら、米企業業績は減速が見込まれる。ドル高傾向も業績には逆風で、株式は買いにくくなる。「会見中にいったん株が買い戻されていても米10年国債利回りは上がらなかった。安全資産の米国債にマネーが集まったからだ」。ミラー・タバックのマリー氏はこう指摘する。投資家がシナリオ修正を終えるまでは、株式相場の安定は期待できない。