「業務スーパー」を展開する神戸物産が成長を続けている。値上げラッシュで食品スーパー業界は採算確保に苦労するが、独自のプライベートブランド(PB)商品で価格優位性がさらに高まるとの見方もある。一方で、現状の低価格路線では出店余地の限界も指摘される。さらなる成長には客層の拡大が欠かせない。「ユニクロ」や「ニトリ」がたどった道筋に解がある。

「かなり広範囲で値上げしているが、価格優位性は保てている」。神戸物産の沼田博和社長は語る。2021年9月にアジアからの輸入品を中心に約200品目のPB商品を平均で約6.5%値上げした。その後も原油価格の高騰や急激な円安をうけて細かく値上げをしているが、顧客の流出は起きていない。

21年11月~22年4月の関東や関西などのフランチャイズチェーン(FC)既存店への商品出荷額は前年同期比4.1%増だった。岩井コスモ証券の饗場大介シニアアナリストは「業務スーパーのPBは他スーパーの商品と比較されにくく、値上げしても相対的な低価格が顧客に支持されている」とみる。

「業務スーパー」は長く深い冷凍庫で商品の補充回数を減らすなどして販管費を抑える(大阪市の天下茶屋駅前店)

株価は1月の年初来高値(4470円)から5月には2700円台まで下げたが、21年11月~22年4月期の好業績が確認されたことで8月には4000円台を回復し、時価総額が1兆円を超える場面もあった。足元では再び米国のインフレ抑制重視による株安などに押されるが、「値上げラッシュに苦しむ小売りの中では相対的に良いと強気に見ている投資家が多い」(SBI証券の田中俊シニアアナリスト)。

ここ数年、神戸物産は快進撃を続けてきた。テレビ番組やSNS(交流サイト)で取り上げられる機会が増え、業務スーパーのフランチャイズチェーン(FC)店は21年10月末時点で店舗数は950店と10年間で65%増えた。22年10月期の連結売上高は前期比5%増の3800億円と22期連続で増収となり、純利益は1%増の198億円と8期連続で最高益を更新する見通しだ。

神戸物産が展開する直営店はわずか3店で、FC店向けのPBの生産と販売が主体だ。FC店の増加に合わせて4月時点の在庫は16年10月期の2倍に増え在庫回転日数も前期に16.8日と効率は悪化傾向にあるが、需要への備えとしての側面も大きい。

自己資本利益率(ROE)は下落傾向にはあるが、前期で29.2%と高水準だ。有利子負債の返済と自己資本の増加が主因で、有利子負債は16年10月期の797億円から前期は346億円となり、自己資本比率は同じ期間で12.4%から48.8%に改善した。

とはいえ、成長神話にもいつかは終わりが来る。比較的手薄だった関東や九州での出店も進み、店舗網拡大の限界も見えつつある。沼田社長は「1500店舗までは現実的な数字として見えてきたが、どこかで確実に限界が訪れる」と語る。

「現状は低所得者世帯が顧客層の中心だが、中高所得者世帯にも広げていける可能性がある」。クレディ・スイス証券の風早隆弘シニアアナリストは指摘する。出店ペースが鈍化しても、客層が広がれば次の成長が期待できる。「愚直に商品力を高めて客層を拡大していけば、将来は成城石井などの高付加価値型スーパーと競合できる可能性もある」(風早氏)。

参考になるのが、SPA(製造小売り)の代表格のユニクロやニトリだ。ファーストリテイリングニトリホールディングスはスケールメリットを生かして商品力を高め、客層を広げてきた。ユニクロは1994年に発売した「フリース」に続き、03年発売の「ヒートテック」や13年に本格展開した「エアリズム」など高機能商品を生かして顧客層を拡大してきた。クレディ・スイス証券が経済産業省の「商業動態統計」などから試算したユニクロの国内の衣料品店市場におけるシェアは21年で10%と過去10年で2倍に高まった。

神戸物産にも客層拡大の芽はある。例えば19年に発売した冷凍マカロンだ。3個36㌘入りで税込み300円と決して安いわけではないが、品質に対する割安感がSNSで評判になり、「予想外に売れている」(沼田社長)。

客層拡大には品質を高めた新たなPBを開発し、食品工場の買収や設備の増強でFC店に供給していくことが欠かせない。手元資金から有利子負債を引いたネットキャッシュは18年10月期にプラスに転じ、22年4月末で280億円弱になるなど、投資余力はある。

業務スーパーを約180店運営する最大のフランチャイジー、G-7ホールディングスの決算資料や商業動態統計から推計した国内の食品スーパー市場での業務スーパーのシェアは、21年時点で3%強だ。ユニクロや国内の家具店で13%超のシェアがあるニトリと比較すれば、それだけ成長余地があるとも言える。