参院選の街頭演説中に銃撃され、67歳で死去した安倍晋三元首相の葬儀が12日、東京・芝公園の増上寺で営まれた。妻の昭恵さん(60)が喪主を務め、凶弾に倒れた夫が搬送された奈良県内の病院で対面した際「手を握り返してくれたような気がした」と語った。葬儀の後には棺を乗せた車が国会周辺を回り、長年政治活動の舞台としたゆかりの地に別れを告げた。後日、東京と地元の山口でお別れの会を開く。

 昭恵夫人は喪主あいさつで「まだ夢を見ているようです。政治家としてやり残したことはたくさんあったと思うが、本人なりの春夏秋冬を過ごし種をいっぱいまいた。それが芽吹くことでしょう」と涙ながらに話した。関係者によると、安倍氏が心肺停止状態で搬送された奈良県立医大で対面を果たした際についても触れ「手を握ったら握り返してくれたような気がした」と振り返った。

 11日の通夜と合わせて家族葬として執り行い、岸田文雄首相(64)、森喜朗元首相(84)ら約200人が参列、約1000人が焼香。会場には、安倍氏がピアノで東日本大震災の復興支援ソング「花は咲く」を演奏し、昭恵夫人が歌う映像も流れた。

 昭恵夫人は憔悴(しょうすい)した様子だったが、参列者に丁寧に頭を下げた。天真らんまんな言動をとがめることなく、見守り、かばってくれた夫。「主人のおかげでいろいろなことを経験できた。凄く感謝している。いつも私のことを守ってくれた」とも語った。

 棺に遺族らが花を入れる際、安倍氏の顔に頬ずり。出席者によると、数分間にわたって、号泣していたように見えたという。

 安倍氏の父親で外相などを務めた晋太郎氏は闘病の末、同じ67歳で他界。その後を継ぎ、安倍氏は1993年に初当選。06年に戦後生まれ初の宰相となり、在職日数は通算3188日、連続2822日でいずれも憲政史上最長だった。

 葬儀後、安倍氏の棺を乗せた車を含む葬列は自民党本部、衆院議員会館前、首相官邸、国会議事堂と政治家として活躍した地を巡った。その後、都内の斎場で荼毘(だび)に付され、天国へ旅立った。