【ワシントン=高見浩輔】米連邦準備理事会(FRB)は15日、27年7カ月ぶりとなる0.75%の利上げを決めた。インフレの加速が止まらず、直前まで強く示唆してきた0.5%の利上げ幅の変更に追い込まれた。通常の3倍となる今回の利上げを含め、政策金利は今秋にも3%を超える見通しだ。失速リスクに直面する米経済だけでなく、過剰債務を抱える世界経済にも試練が訪れる。

 

「我々が犯しうる最悪の過ちはインフレの抑制に失敗することだ」。米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見でパウエル議長はこう強調した。市場は急速な利上げが景気後退を呼び込むことを懸念するが、何よりインフレの封じ込めを優先する姿勢をこれまで以上に強くにじませた。

 

焦りの裏側には誤算がある。5月会合では複数の参加者が「物価上昇の圧力はこれ以上悪化しないかもしれない」と期待していたが、6月10日に発表された5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で8.6%と約40年ぶりの水準を更新した。ミシガン大が同日公表した調査でも消費者の物価上昇予想が強まり、インフレがさらに加速する懸念が強まった。

FRBは7月会合まで3カ月連続で0.5%の利上げを続ける姿勢を示し、政策を先読みして動く長期金利などのコントロールを狙ったが「失敗に終わった」(米モルガン・スタンレー)。パウエル議長は会見で次回の7月会合の利上げ幅が「0.5%か0.75%になる可能性が高い」としたが、信認は揺らいでいる。「6月のCPIを含め、債券市場は経済指標に敏感に反応し続けることになる」(米証券)との声がある。

 

FOMC参加者による2022年末時点の政策金利見通しは中央値が1.9%から3.4%に切り上がった。今回の利上げで短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1.50~1.75%としたため、残りの4会合でさらに計1.75%の利上げが必要になる。遅くとも11月には14年ぶりに3%を超えるシナリオが濃厚だ。1年間の利上げ幅は比較可能な1982年以降で最大となり、23年末にはさらに3.8%まで引き上がる。

先行きの景気を冷やしすぎるリスクは一段と強まる。23年10~12月期の実質経済成長率の見通しは2.2%から1.7%に下方修正され、失業率は3.5%から3.9%に上方修正された。ミシガン大の消費者信頼感指数は6月に過去最低を記録し、金利の上昇で住宅ローン申請は22年ぶりの低水準になった。23~24年に景気後退に陥るとの予想が増えている。

こうした見通しを反映し、今回はほぼすべての参加者が24年末までに利下げに転じると予想した。政策金利見通しの中央値は3.4%だった。04年6月からの利上げ局面は約2年間、15年12月からの利上げは約3年間かかり、いずれも利上げの最終局面ですら「次の利下げ」を見通してはいなかった。

 

影響の深刻さは読めない。前回0.75%の利上げを実施した1994年とは債務の規模も大きく異なる。国内総生産(GDP)比で162%だった米国の民間債務は2020年には243%に拡大した。国際金融協会(IIF)によると新興国を含めた世界の債務残高は300兆ドルを突破し、この20年で3.6倍になった。

世界の金利を先導する米政策金利は1980年代以降、おおむね低下傾向が続いてきた。近年はゼロ金利で債務が拡大しやすい状況を生み出してきた。過去に例のない利上げが金利上昇という形で世界に波及すれば、利払い負担の増加が途上国の債務不履行などさまざまな信用不安を呼び起こす懸念もある。