米国株市場で押し目買いがやや優勢になっている。ダウ工業株30種平均は週間ベースで上昇して終わり、9週ぶりの反発となった。だが直近高値から安値までの下落率は最大15%にとどまり、過去の代表的な下落局面と比較すると調整は十分でないようにもみえる。米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めが経済や市場にどんな影響を与えるかが今後の焦点となる。

ダウ一時15%安、過去相場はさらに下落

ダウ平均は1月4日に直近の高値である3万6799ドルを付けたが、短期的な反発を挟みつつ、足元では最大15%下落した。新型コロナウイルス禍からの経済回復が進むなか、ウクライナ危機により原油や原材料の価格が高騰。急速に進むインフレを抑えるため、FRBが利上げなど金融引き締めに政策を転換したことを受け、株安が進んでいる。

現在と局面が似ているのが18年12月の「クリスマスショック」だ。FRBが利上げを進めていた時期に米中対立の激化が重なり株式相場が動揺。米金融引き締めと地政学リスクが株価を押し下げた。18年10月から12月24日まで19%下落した。

過去にはもっと下がった局面もあった。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年3月のコロナショックでは、2月の高値から3月23日までに37%下げた。金融危機に端を発する08年のリーマン・ショック時は44%下落した。

 

ハイテク株が多いナスダック総合株価指数は調整が進んでいる。米金利の上昇が割高な成長株の逆風となり、下落率は3割に迫る。コロナショックにほぼ並び、クリスマスショックの下落率を上回っている。

みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは「ナスダックの下落率では、00年代前半のIT(情報技術)バブル崩壊時も参考になる」と話す。大規模金融緩和であふれたマネーが一部の人気銘柄に集中し、株価がかさ上げされていた点で今回と似通っているためだ。

ITバブル崩壊ではナスダックが00年3月から01年4月の1年以上かけて68%下落。下落幅は今回より約40ポイント大きい。

FRBは今後、異例のペースで利上げを進める見通しだ。コロナショックの際に大規模な金融緩和をしているだけに影響は大きくなる。経済や市場にどんな負荷がかかるかは見通しづらく、「下げ相場ではファンドの解約なども重なり、株価の下落に拍車がかかる恐れがある」(みずほ証券の小林氏)。

ナスダックPER、コロナ前水準に戻る

株価の割安・割高度合いを測る予想PER(株価収益率)でみると、株価の調整はかなり進んだように映る。PERは株価がEPS(1株当たり純利益)の何倍の価値になっているかを示し、ダウ平均は現在19倍ほど。20年末の26倍超から修正が進んでいるが、過去10年間の平均(17.5倍)に比べるとまだ割高だ。ハイテク株が占める割合が高いナスダックは25倍と過去10年平均を下回り、コロナ前の水準に戻った。

 

時価総額が世界上位の個別銘柄でみると、米グーグル親会社のアルファベットは17.5倍とダウ平均がコロナ前の高値を付けた時点の27.6倍から調整が進んでいる。アマゾン・ドット・コムは66.6倍と低下したものの、高水準を維持する。

ただPERによる割高・割安の判断は「企業業績の予想が大きくは動かない」という前提の下に成り立つ。金融引き締めで景気後退に向かえば、企業業績は悪化しかねない。企業のEPS予想が切り下がれば、EPSとPERのかけ算である株価も支えを失う可能性がある。

 

イールドスプレッド、金利対比なお割高

金利が上昇局面にあるなか、「安全資産」とされる国債との利回り差(イールドスプレッド)から株式相場の調整度合いを測ることもできる。イールドスプレッドは1株当たりの純利益を株価で割った「益回り」から米10年債の利回りを引いて算出する。イールドスプレッドは大きいほど、債券に対して投資妙味があると判断できる。

ナスダックのイールドスプレッドは24日時点で1.33%と、過去10年平均のイールドスプレッド(2.05%)に比べて低い。10年平均と同水準にするには、直近の米10年債利回り(約2.75%)で計算すると、株価は足元から約2割安い水準となる。ダウ平均でも同様の結果になった。

一部の市場関係者からは「株価だけで見た場合、ナスダックは調整が終わったように見える」との声もある。だが長期金利に対する利回り差を考慮すると、株価はまだ割高とも考えられる。大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリストは「米株の調整が一巡するには、『GAFAM』などの(ハイテク)大型株がもう一段下げる必要があるかもしれない」と話す。

日経平均、割安で買い

日経平均株価の予想PERは足元で13倍弱。過去10年平均(約15倍)に比べれば割安な水準だ。過去10年で最も低かった2012年ごろも11倍前後で推移していた。

値がさ株でハイテク株の代表格とされる東京エレクトロンは21年末に25倍だったPERが17倍台まで切り下がった。同じく44倍だったリクルートホールディングスも足元で26倍台となった。

日本株は割安な点から海外勢による買いが進んだが、円安進行が一服し、2万7000円を前に伸び悩んでいる。今後FRBによる急速な金融引き締めで世界市場に混乱が起きれば、先行きは不透明になる。

(井口耕佑、小池颯)