【ニューヨーク=斉藤雄太】20日の米株式市場でダウ工業株30種平均は小幅に反発し、週間では934ドル(2.9%)安になった。8週連続の下落で、金融情報会社リフィニティブによると世界恐慌のさなかにあった1932年以来90年ぶりの連続下落記録となった。約40年ぶりの高インフレ抑制をめざす米連邦準備理事会(FRB)が金融緩和から引き締め方向に急旋回し、景気の過度な冷え込みを警戒する投資家の売りが広がっている。

 

20日の終値は前日比8ドル高の3万1261ドルだった。ハイテク株中心のナスダック総合株価指数と多くの機関投資家が運用の物差しにするS&P500種株価指数はそれぞれ7週連続の下落となった。S&P500指数は20日の取引時間中に、1月の高値からの下落率が「弱気相場入り」の目安になる2割を超える場面もあった。

ダウ平均は3月下旬以降の8週間の下げ幅が合計で約3600ドル(1割強)に達した。株安が止まらない背景には、資源高や賃金の上昇、供給制約など複合的な要因で生じている高インフレが早期に落ち着く兆しがみえないことがある。

 

FRBは5月に続いて6、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で通常の倍にあたる0.5%の利上げを実施する構えだ。パウエル議長は今週、2~3%とする景気を過熱させず冷やしもしない中立金利を超えて利上げすることも「必要ならまったくちゅうちょしない」と述べた。国債などの保有資産を減らす量的引き締めも6月に始め、インフレ退治を最優先課題に据える。

ダウ平均が2020年3月の新型コロナウイルス禍による急落局面から22年初の最高値まで2倍近くに上昇する過程では、FRBの超低金利政策と資産購入による潤沢なマネー供給が株価を大きく押し上げる要因になった。現在はこれが逆回転し、「FRBや他の中央銀行が金融環境を引き締めるなか、リスク資産の値付けが大きく見直されている」(運用会社ニューバーガー・バーマンのジョセフ・アマト氏)。

コロナ下の株高をけん引した大型ハイテク株に売りが殺到し、アップルは過去8週間で21%安、アマゾン・ドット・コムは35%安になった。

米景気の急減速懸念も広がっている。バンク・オブ・アメリカは20日、23年の物価上昇予想を引き上げ、実質成長率見通しは1.5%と0.3ポイント引き下げた。同社のエコノミスト、イーサン・ハリス氏は「米景気はさらに下振れるリスクもあり、来年に景気後退に陥る可能性も3分の1程度ある」と指摘する。

インフレは原材料高や人件費の上昇を通じて企業業績も圧迫し始めている。

今週発表の22年2~4月期決算で利益水準が市場予想を大きく下回った小売り大手のターゲットとウォルマートは投資家の失望売りを誘い、株価は今週だけで29%安と19%安に沈んだ。インフレによる実質賃金の目減りが、特に中低所得層の消費余力を細らせている面もある。

2月下旬に始まったロシアのウクライナ侵攻は長期化し、米欧諸国による対ロシア制裁やグローバル企業のロシア撤退も続く。米欧とロシアに近い国々の間の緊張の高まりや世界的なサプライチェーン(供給網)の再構築など、織り込みきれないリスクも多い。株価の下落局面で押し目買いに動いてきた投資家の積極姿勢も失われている。

ダウ平均は下落基調が続くとはいえ、コロナ前の19年末よりはなお1割ほど高い水準だ。景気動向次第で米株相場はなお下げ余地があるとの見方も増えている。ドイツ銀行は米国が景気後退に陥る場合、S&P500指数はさらに2割以上下げる可能性があると予測する。

過去の金融引き締め局面では、株価急落を踏まえてFRBが利上げや資産圧縮を見直すこともあった。だが現在は「市場が正しく機能している限り、いまの取り組みを止める必要はない」(米クリーブランド連銀のメスター総裁)とインフレ対応の引き締め方針を早期に撤回する機運は乏しい。米株相場は反転のきっかけを見いだせず、不安定な値動きが続きそうだ。