米連邦準備理事会(FRB)がインフレの沈静化に向け、金融緩和を「2倍速」で縮小する。利上げ幅も保有資産の圧縮も、前回引き締めの倍のペースだ。金利の急上昇は住宅市場の冷え込みなどで景気後退リスクを高める。株式をはじめリスク資産からの資金流出や、新興国などの通貨安も世界経済の試練となる。

 

4日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は22年ぶりとなる0.5%の利上げと量的引き締め(QT)を同時に決めた。将来の0.75%の利上げにパウエル議長が否定的だったため市場はいったん株高で反応したが、5日午前には再び株安に転じた。新型コロナウイルス禍への対応で急拡大した緩和マネーの正常化が過去に例のない急ピッチで進むことになる。

FRBが異例の措置に動くのは、インフレの勢いが想定以上に強いためだ。3月の米個人消費支出(PCE)物価指数は、前年同月比の上昇率が6.6%と約40年ぶりの水準を記録した。

金利先物市場では米政策金利が2022年末までに2%以上になることを完全に織り込み、23年半ばに3%台に達するとの観測も5割を超える。経済に中立な中立金利は2%台とされるが、インフレ封じのためにそれを超える利上げが必要になるとの見方が多い。

FRBの強い姿勢は世界経済に試練を与える。米長期金利は5月に入って3年5カ月ぶりの高水準となる3%台まで上昇(債券価格は下落)した。21年末からほぼ2倍の水準だ。金利上昇は企業や家計の借り入れコストを増やし、景気の重荷になる。

とりわけ懸念されるのが住宅市場の冷え込みだ。米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)によると、30年固定の住宅ローン金利は4月に5.1%台と12年ぶりの高さに上昇。3月の新築戸建ての販売件数も3カ月連続減になった。

 

ニューヨーク連銀によると、米家計の住宅ローン残高は昨年末で約11兆ドルとコロナ前より14%増えている。金利上昇で家計はこれまでのように住宅ローンの借り換えで金利負担を軽くすることが難しくなり、消費にブレーキがかかりうる。

緩和縮小で資金の調達コストが上がると、投資家はより慎重に投資先を選ぶようになる。将来の成長を優先し、リスクにある程度目をつむって買われていた株式や社債の一部には下落圧力がかかり始めている。

米低格付け社債(ハイイールド債)の利回りは5月に一時2年ぶり高水準となる7%台に上昇(価格は下落)した。米株式市場ではハイテク株や小型株が下落している。

米証券業金融市場協会(SIFMA)によると米ハイイールド債の発行額は21年に4850億ドルとコロナ前の19年比で7割以上増えた。急速に借金を増やした企業の資金繰り不安も懸念される。

 

日本経済への影響も大きい。ドルの総合的な強さを示す指数は昨年末から4月下旬にかけて8%上がり、約20年ぶり水準を付けた。対円でも一時1ドル=131円台と20年ぶりのドル高となった。

FRBが金融引き締めを進めれば、世界の長期金利にも上昇圧力がかかる。日本経済研究センターは日銀が介入しなければ、日本の長期金利も23年末に0.6%まで上昇する可能性があると分析する。日銀が無制限に国債を買い取る「指し値オペ」で金利を抑えようとすると、国債保有残高を120兆円弱増やす必要があり、緩和継続が困難になりかねないという。

危機的なのは新興国だ。国際金融協会(IIF)によると、新興国の債務は21年末時点で95.7兆ドルと19年末比で25%程度増えた。ドル建て債務は米金融引き締めの余波で通貨安が進むと返済負担が重くなる。世界銀行のマルパス総裁は「低所得国の約6割はすでに債務危機か高いリスクを抱える」と訴えている。