【ロンドン=篠崎健太】英イングランド銀行(中央銀行)が16日、日米欧の主要4中銀で先陣を切って利上げに動いた。新型コロナウイルスの新たな変異型「オミクロン型」の感染が急拡大する最中の判断で、金融市場では先送りとの予想が多かった。変異型の不透明な展開よりも現実に加速するインフレの恐怖を無視できなかった。

 

金融政策委員会の最終日、15日朝に発表された11月の消費者物価指数(CPI)が決定打になったのは間違いない。前回11月上旬の時点では前年同月比の上昇率を4.5%とみていた。出てきた数字は5.1%と前月より0.9ポイント急伸し、主なエコノミスト予想の上限も超えた。ピークは2022年4月に「5%程度」とみていたが、1カ月半で「6%程度」へ上方修正を迫られた。

 

イングランド銀は2%のインフレ目標を課され、CPI上昇率が1%幅を超えて離れると財務相に書簡で説明しなければならない。ベイリー総裁は最新の書簡で「オミクロン型が公衆衛生に大きな影響を及ぼそうとするなかでの利上げは難しい決定だ」と吐露した。

事前の見送り観測を広げたのは、11月に利上げを主張したソーンダース委員だった。3日の講演でオミクロン型の影響について「より多くの証拠を待つことに利点があるかもしれない」と語ったからだ。今回はまさに、新たな景気懸念と物価高加速をどう比較考量するかが焦点だった。

 

利上げには政策委員9人のうち8人が賛成し、テンレイロ委員1人が反対した。ただハト派に位置づけられる同氏も「オミクロン型がなければ今会合での利上げが適切だっただろう」との見解を示した。インフレ退治への政策転換は事実上の全会一致と言っていい。

米バンク・オブ・アメリカはリポートで「オミクロン型よりもピークに6%と見込むインフレが賃金に及ぼす圧力を心配した」と解説した。議事要旨には確かに、オミクロン型は不確実だがインフレは進行中の脅威との認識が随所ににじんだ。

例えばオミクロン型について「需要と供給、ひいては中期的なグローバルなインフレ圧力に与える影響のバランスははっきりしない」との記述があった。目先は規制再強化で景気を下押しするが、政策判断で重視する中期の影響は不明確だとした。コロナ禍の経験として「新たな感染の波が国内総生産(GDP)や消費支出に与える影響はそれ以前の波より小さい傾向があった」との見解も示された。

一方で物価高は想定を上回るペースで加速した。天然ガスなどのエネルギー価格が再び騰勢を強めるなか、議事要旨からは物価をめぐる記述で「一時的」という表現が姿を消した。オミクロン型が供給制約を通じてインフレを生む恐れも議論された。

英HSBCアセットマネジメントのフサイン・メヒディ氏は「労働需給は引き締まりオミクロン型が供給制約を悪化させる可能性もあるなか、進行中のインフレリスクは22年にさらなる行動を迫るだろう」とみる。市場では「次の利上げは(次回会合の)22年2月」(ドイツ銀行)との見方も浮上した。

英国では16日、新型コロナの新規感染報告が約8万8千人と前日より1万人近く増え、連日で過去最高を大幅に更新した。変異型の行方は予断を許さないが、英中銀は目先の不透明感よりも「中期的なインフレ見通しに重点を置き続ける」構えを鮮明にした。