【シリコンバレー=佐藤浩実】米インテルは6日、車載半導体などを手掛けるイスラエルの子会社モービルアイを2022年半ばに米国で上場させると発表した。株式公開によって得る資金をCPU(中央演算処理装置)の先端品などを生産するための設備投資に充てる。公開後も過半の株式を保有し、共同開発も続ける。

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が先に報じていた。WSJによれば、モービルアイの企業価値は500億ドル(約5兆7000億円)を上回る可能性があるという。2月に就任したインテルのパット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)による構造改革の最新の動きとなる。

モービルアイの売り上げ規模は20年に約10億ドルにのぼり、インテル全体(778億ドル)の1%強を占めていた。株式公開後もアムノン・シャシュアCEOら現経営陣が継続して指揮し、インテルが20年に買収したイスラエルの交通アプリ企業などもモービルアイに統合する。

インテルは自動運転技術への需要が高まる自動車分野への足がかりを築くため、17年に運転支援システムに使う画像処理半導体と、サービス開発を手掛けるモービルアイを買収した。買収額は約150億ドル(発表時のレートで約1兆7500億円)だった。

モービルアイ、21年は4割増収

モービルアイのシャシュア氏はインテル傘下で「年間のチップ出荷数や従業員数は3倍近くなった」と説明する。21年は30以上の自動車メーカーに半導体などを供給する契約を結び、20年比で4割の増収を見込む。高級車では30年までに部品の2割が半導体になるとの予測もあり、中核製品を手掛ける同社への成長期待は高い。

かたやインテルの置かれた状況は厳しい。長年続いた経営の失策により半導体の性能を決める微細化で台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子の後じんを拝し、活況が続く半導体業界にありながら需要を取り込みきれていない。

 

 

直近1年間の株価上昇率は2%弱と、米国企業でもエヌビディア(2.2倍)やアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD、48%上昇)に大きく見劣りする。6日終値時点の時価総額は約2070億ドルと、エヌビディアの3分の1に届かない。

復活へ「製造」に集中投資

古豪復活のため2月に登板した元CTO(最高技術責任者)のゲルシンガー氏が掲げたのが自社で「製造」を手掛ける強みを生かす戦略だった。自社生産からの撤退観測で士気の下がっていた社内を鼓舞し、就任早々に200億ドルを投じて米南部アリゾナ州に2つの新工場を建設する計画を表明した。隣接するニューメキシコ州でも35億ドルを投じて「パッケージング」と呼ばれる後工程の投資に踏み切った。

戦略物資である半導体のサプライチェーン(供給網)をめぐる国家間の緊張の高まりをにらみ、米欧企業の顧客を念頭に置く受託生産(ファウンドリー)事業への参入も掲げた。米政府などからの補助金獲得を視野にロビー活動を強めるものの、TSMCやサムスン電子に対抗するにはそれ以外でも継続的な大規模投資が必要になることを意味する。

インテルはモービルアイの株式を公開し、一部を売却することで設備投資にあてる資金を捻出しやすくなるとみる。一方で「株式の過半を持ち続ける」と明言し、共同開発などを通じて自動車分野での半導体需要の拡大を取り込む方針だ。

もっとも、モービルアイの新規株式公開(IPO)の時期は22年半ばとなる見込み。過剰さも目立つIPOブームが過ぎている可能性もあり、インテルが期待するような評価額を得られるかは不透明な面もある。