世界の金融政策が転換点にさしかかっている。供給網(サプライチェーン)の混乱が続くなかでエネルギー価格が高騰し、インフレの長期化の懸念が強まっているためだ。新型コロナウイルス禍への対応で金融緩和を進めた局面から一転、景気にリスクが残る中で、利上げ前倒しを迫られる国が増えている。

利上げ32カ国、利下げ8カ国――。SMBC日興証券の丸山義正氏が83カ国の中央銀行の2021年の政策変更を集計したところ、利上げが大幅に上回った。新型コロナウイルスの感染が急拡大した20年に利上げ9カ国、利下げ71カ国だった状況から景色が一変した。

 

 

足元で市場の注目が一気に高まったのが英国だ。17日に英中銀イングランド銀行のベイリー総裁が「金融政策は供給問題を解決できないが、中期的なインフレリスクがあると判断すれば行動しなければならない」と発言。11月の利上げ観測が急速に高まった。投資家は12月に連続利上げする可能性も織り込んでいる。

ベイリー総裁のいう「供給問題」は半導体などの材料不足や物流の停滞、原油・天然ガスといったエネルギー価格の急騰だ。たしかに利上げが問題解決に直結するわけではない。ただ供給制約を起点にインフレが続けば、国民のインフレ警戒感が次第に強まり、幅広い値付けに影響が及んでインフレが長引くことを中央銀行は警戒している。

6日にはニュージーランド準備銀行がインフレ長期化に備え、7年ぶりの利上げに踏み切った。供給制約や人手不足、エネルギー価格の上昇を受け、「インフレ圧力がより持続的になっている兆しがある」と利上げの理由を説明した。

 

 

米連邦準備理事会(FRB)は半年ほど前には23年まで利上げをしない姿勢だったが、2%を大きく上回るインフレが収まらず、この数カ月で22年の利上げを念頭に置く幹部も増えてきた。米金利先物市場は22年に2回の利上げがあると予想している。

20年3月にはFRBが緊急利下げや大量の資産購入を決めるなど、前例のない金融緩和を打ち出した。経済正常化に向け強力な緩和を続ける姿勢をとってきたが、高インフレという予期せぬ事態により戦略修正を余儀なくされている。

 

 

ブラジルやロシアなど新興国でも利上げが相次いでいる。金利を上げなければ資本が流出しやすくなり、通貨安でインフレが加速するおそれがあるためだ。各国の中銀は景気回復が不透明な中でも利上げを進めねばならない難しい判断を迫られている。

海外と異なり、日本でのインフレ圧力はこれまでのところ弱い。22日発表の9月の消費者物価指数(生鮮食品除く)は1年半ぶりに前年同月比プラスに浮上したが、それでも0.1%の上昇にとどまる。日銀は27~28日の金融政策決定会合で物価見通しを改めるが、22~23年度の物価上昇率は7月時点の予想とほぼかわらない1%前後となる公算が大きく、金融緩和を粘り強く続ける方針を示す見通しだ。

ただし、9月の企業物価指数は前年同月比6.3%上昇と13年ぶりの高い伸び率を記録。輸入物価を中心に川上ではインフレ圧力が強まっている。10月に入ってからも資源高・円安が続いており、コストプッシュ型の悪い物価上昇に波及する可能性はある。水準はまったく違うものの、「日本だけ蚊帳の外」という状況が今後も続くかは見通しにくくなってきた。