中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は、国内不動産大手の中国恒大集団を破綻の瀬戸際に立たせている。異例の3期目入りの可能性をちょうど1年先に見据え、自身の任期で最大級となる経済的賭けに出たかたちだ。

 

多額の債務を抱える恒大が破綻すれば、何十万人もの不動産の買い手や個人投資家のみならず、世界第2位の経済大国の金融の安定や経済成長に重大な影響が及ぶとみられる。

それでも習政権は、他の大手の複合企業2社が膨大な債務の重みで破綻寸前に追い込まれた時とは違い、介入して恒大の状況を安定させる意向をまだはっきりとは示していない。

「政府内部では恒大について非常に懸念している」。ある政府顧問はこう明かす。中国の債務残高の対国内総生産(GDP)比率は2年足らずで250%から290%に急上昇したという。

「これは氷山の一角にすぎない」と同顧問は続けた。「恒大が劇的な事態に見舞われれば、同業他社の債券のリスクプレミアムが大幅に上昇し、不動産業界のさらなる足かせになるだろう」

住宅160万戸の引き渡しはまだ

先週は週初、香港株が急落したが、22日には中国株式市場は比較的安定した。恒大が23日に期限を迎える人民元建て債の利払いを実施すると表明したためだ。だが創業者の許家印・董事局主席が率いる同社は、同じく23日が期限のドル建て債の利払いについては確約しなかった。

中国人民銀行(中央銀行)は23日、国内の金融システムへ差し引き1100億元(約1兆8800億円)を供給した。米ブルームバーグのデータによると、流動性供給の規模はここ8カ月で最大だった。

中国政府は国有の不良債権受け皿会社の中国華融資産管理や、航空・物流・観光事業を手がける複合企業の海航集団(HNAグループ)など、国家主導による重債務企業の再編をいくつも監督してきた。とはいえ恒大は、何百万人もの国民の生活に直接影響が及ぶという点で突出している。

 

恒大は銀行や債権者、供給業者への債務が推定3000億ドルに上るうえ、自社従業員を含む推定8万人の個人投資家に高利回りの理財商品を60億ドル余り販売してきた。中国南部・深圳市にある恒大本社では今月中旬、こうした投資家たちが抗議活動をした。推定160万戸の住宅に関しても、購入者は前払い金を払ったが、引き渡しは済んでいない。

金融業界に詳しい米ニューヨーク大学上海校のデービッド・ユー氏は「一般市民からも圧力が加わるため(他社と)事情は変わってくる」と話す。

「共同富裕」とそぐわない

中国のGDPの4分の1以上を占める不動産業界で、恒大は売上高第2位を誇る。ただ、習政権はそうした重要な経済の原動力が破綻するのを容認したくない半面、国家主導の救済策をまとめることで、非常に高額な救済の前例をつくってしまうことも懸念している。

恒大と金融規制当局との協議に詳しいある関係者は「金融引き締め政策のせいで多くの不動産企業がストレスにさらされている」と明かした。

「政府が介入して恒大を救済すれば、他の大手不動産企業はそろって同様の要請をしてくるだろう。政府はすべてを救うことはできない」

習氏と経済担当者らが市場や経済の大崩壊を避けるため、政府として恒大に介入せざるを得ないと判断した場合、重要な政治的課題がひとつある。創業者の許氏を必ずしも救わずに、いかに同社を救済するかだ。

習氏は8月、「共同富裕(ともに豊かになる)」を重視する内政方針を打ち出した。これは中国共産党のトップとして22年末から始まる異例の3期目を目指すうえでの柱となる。中国の長者番付で5位の許氏を救済することは、習氏の掲げる格差是正のスローガンにそぐわない。

経営陣は交代か

許氏は恒大の株式を7割以上保有している。中国の長者番付「胡潤百富榜」によると、同氏の資産は20年末時点で350億ドル相当と推定される。恒大の株価は過去12カ月間で86%下落しているため、許氏の純資産は大打撃を受けるだろうが、近年は配当で数十億ドルを得ている。

豪投資銀行マッコーリーの中国担当チーフエコノミスト、ラリー・フー氏は「十把ひとからげの救済はあり得ない」とみる。「株主と貸し手は多額の損失を被る可能性がある。しかし政府は、前売りされた集合住宅は確実に買い手へ引き渡されるようにするだろう」

前出の政府顧問は、750億ドル超の債務を抱えていた海航集団に対する方法がひとつのモデルになり得ると語った。

海航集団の会長は政府が指名した人物にすげ替えられ、会社は4つの事業部門に再編された。そのうち最もよく知られた事業である海南航空には、ホワイトナイト(友好的投資家)となる国有企業が見つかった。

「恒大は生き残るだろうが、経営陣を追い出すことになる」と同顧問は言う。「海航集団がそうだった。それで会社も株価も債券価格も安定した。当局はこのやり方にかなりの自信を持っている」

By Tom Mitchelle, Edward White and Sun Yu

(2021年9月23日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)