23日の米株式市場でダウ工業株30種平均は続伸。前日比506ドル高で終え、中国恒大集団の債務不安で週初に大きく下げた分も取り戻した。市場は恒大ショックをいったん吸収したが、危機は当面くすぶる。「伝染リスク」の見極めは長期戦になりそうだ。

この日の取引開始前、市場参加者は2本の記事にくぎ付けになった。ブルームバーグ通信は「中国当局が恒大に、短期的なドル建て債のデフォルト(債務不履行)を避けるよう伝えた」と報じた。一方、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「当局が地方政府に恒大の経営破綻に備えるよう指示した」との記事を流した。 

相反するかのような見出しに戸惑いが広がったが、どちらも市場が想定する基本シナリオの範囲内だ。市場は「何らかの形で政府が関与する債務再編は避けられない」と織り込んでいるからだ。

恒大は先週、資金繰り難に対応するため財務アドバイザーを雇ったと発表。9月の不動産販売も低調で、警戒モードを高めた中国ウオッチャーは直後から想定シナリオを練っていった。「負債の大きさは長く認識されており、当局も対策を検討しているはずだ。そうでなければ大混乱を招く」(TSロンバード)、「(無秩序な整理による)ハードランディングの確率は30%」(ソシエテ・ジェネラル)――といった具合だ。

焦点は債権カットの比率や政府関与のあり方だ。先のWSJ記事は「政府が介入するのは最終局面だ」という関係者の声を伝えている。23日に利払い日を迎えた恒大のドル建て債の価格は流通市場で額面100に対して20程度に下げている。契約通りに元利払いされないことを見込んだ価格だ。ゴールドマン・サックスのケネス・ホー氏らは15日のリポートで「債務リストラが市場価格の近くでなされるなら混乱は限定的だ」と指摘した。

このドル債は支払い猶予期間があり、利払い状況は現時点では不明だ。市場は今後も、利払いの有無や当局の情報発信に一喜一憂せざるを得ない。専門家は、当局のメッセージを額面通りに受け取れない実情にも警鐘を鳴らす。

米議会の超党派諮問機関、米中経済安全保障再考委員会(USCC)は8日、対中投資の「新たなリスク」について公聴会を開いた。「アネクドート(逸話)ではなく、データを集めるべきだ」。米調査会社スレッシャーのレベッカ・フェア最高経営責任者(CEO)はこう語り、中国政府が「誘導」する世論に惑わされないよう警告した。

フェア氏は米中央情報局(CIA)に勤務経験のある情報分析のプロだ。スレッシャー社では、配車アプリ大手の滴滴出行(ディディ)への規制を巡る中国のSNS(交流サイト)の投稿を分析した。中国政府による相次ぐ規制に対して、ネット上では当初こそ批判的な見方もあったが、「反・滴滴」に変わっていった。規制が中国市場にとって逆風になるとの声も消えていったという。

恒大の経営再建を巡っても様々な言説が飛び交うだろう。習近平(シー・ジンピン)指導部が唱える「共同富裕(ともに豊かになる)」は、もともと長期戦だ。市場もそれに向き合う覚悟が必要になる。