積み立て型の少額投資非課税制度「つみたてNISA」の口座数が伸びている。対象ファンドでの投資家のリターンは実際にどのくらいなのだろうか。保有者全員の平均購入単価を基に、それぞれの投資家が購入した時点以降の累積の含み益の平均を「保有者平均リターン」として推計すると、6月末時点ではまずまずの20%強だった。

 

 

つみたてNISAの利用拡大に弾みがついてきた。金融庁がまとめた2021年3月末時点の調査によると、口座開設数は40歳代以下の若い世代を中心に360万口座を超えた。コロナショック後の1年間で140万口座あまり増えている。つみたてNISAは金融庁の基準を満たす投資信託が対象となる。信託報酬の上限値など定められた条件を満たす投信はETF(指数連動型上場投資信託)を除き192本(6月時点)。3月までの合計購入金額は2018年の制度開始から累計9000億円に達した。

 

 

対象ファンドの純資産残高は7月末時点で計6兆円に迫る。資金流入額も膨らみ、7月は計2500億円近くの個人マネーを集めた。金融庁が推し進める「長期・積み立て・分散」投資がコロナ下で加速しつつある。

肝心の運用成績はどんな状況なのか。どのファンドをいつ購入したかによって個々の投資家のリターンはまちまちなので、ここでは対象ファンドを保有する投資家全員の購入以来の累積リターンを平均して推計した。ただし課税口座などで購入した投資家のリターンも含む。また、つみたてNISA開始以前の時期も含めて設定以降に購入し、現在まで保有している投資家全員の平均リターンとなる。

対象ファンドの設定以降の売買金額を基に、保有者全員の平均購入単価を推計。保有者平均リターンは現在の基準価格を平均購入単価と比べて計算した。基準価格が平均購入単価を上回れば保有者平均リターンはプラスとなり含み益がある状態、下回ると逆に含み損(元本割れ)状態になる。保有者平均リターンは、基準価格が高い時に人気が出て資金が集まり口数が増えると薄まりやすいといった事情があるのは留意点だ。

 

 

純資産残高が大きい主な対象ファンドの保有者平均リターンをみると、首位は海外先進国株指数への連動を目指す「SMT グローバル株式インデックス・オープン」の約64%。運用中にかかる信託報酬は年率0.5%台と類似投信に比べて安くないが設定は08年で運用歴が長い。2位は世界株で積極的に銘柄を選別する「セゾン資産形成の達人ファンド」の約50%。信託報酬は1.5%台(上限)と高めだが、運用年数は14年に上る。

これに対し、首位と同じ指数への連動を目指し信託報酬が0.1%程度と安い「eMAXIS Slim 先進国株式インデックス」の平均リターンは約36%と首位に及ばない。同ファンドは設定が2017年と新しいためとみられる。保有者平均リターンの差は長期に積み立て投資する有効性を示している。

個別の投信の保有者平均リターンをつみたてNISA対象ファンド全体に広げて推移をみると、つみたてNISAが始まって以降でマイナスとなった月は3回のみだった。米中貿易摩擦が激化して金融市場が動揺した18年12月とコロナショックを受けた20年3月、同4月だ。マイナスは最大でも8%弱で、21年6月末時点の平均は約22%まで回復。つみたてNISA対象ファンドの全般的な運用成績はまずまずといえる。

 

長期投資で果実大きく 余裕資金で定額購入を

海外株か日本株か、様々な資産に投資するバランス型かといった投資対象も成績を左右するが、表からはおおむね運用年数が長いほど保有者平均リターンが高まる傾向がみてとれる。保有者平均リターンと設定来リターンとの間の相関も高い。
つみたてNISAを資産形成で活用するならば、早く始めて長く継続するのが得策であることを示している。積み立て投資では時とともに投資元本が増え、収益率によって得られるリターンの額の大きさが膨らむ効果も期待できる。最長20年間の非課税期間、購入時手数料無料、低コストといった制度上のメリットも大きい。
ただし元本割れリスクは排除できない。コロナショック時も株価急落局面で投信の基準価格も大きく下がった。積み立て投資では、毎月の余裕資金を機械的に投信の定額購入に充てることを継続し、いつのまにか資産が増えていく期待にかけるのが醍醐味になる。