東京五輪に出場する侍ジャパンの内定メンバー24人が16日、都内ホテルで発表された。投手11人、野手13人の構成で、投手陣ではヤンキースから日本球界復帰を果たした楽天の田中将大、巨人の菅野智之らの実績と経験のある各チームのエースに加え、広島のドラフト1位の栗林良吏、2年目の森下暢仁、21歳の西武の平良海馬らの若手が選ばれ、野手では、2019年のプレミア12のVメンバーを10人選び、そこにヤクルトの村上宗隆ら新しい戦力を加えた。 

 

 会見で稲葉監督は、「スピード&パワーを具現化してくれる選手を選んだ。いい選手を選ぶのではなく、どうすればいいチームを作れるのかを重要視した。まだ本番まで1か月ある。今状態がよくない選手も1か月で(調子を)上げてくれると信じている」と語り、24人、一人一人の選考理由を説明。目標を「金メダル」とした。

 

  一方で、185人の候補の中からは、侍ジャパン入りの期待が高かった選手の落選もあった。

 

 投手陣から見ると、筆頭はオリックスの2年目左腕の宮城大弥だろう。6勝1敗で防御率は2.31。パでは選出された同僚の山本由伸に次ぐ2位の数字を残し制球に安定感がある。交流戦では巨人相手にあわやノーノーの快投も見せた。高校時代には国際試合も経験している。先発左腕では7勝2敗の楽天のルーキー早川隆久も選から漏れた。 

 

 1.89でセの防御率トップにいる中日の柳裕也、国際経験豊富な楽天の則本昂大も落選。則本は防御率が3.28、5勝3敗で奪三振74は、パの2位だが、先発右腕では森下のフレッシュさを優先した形だ。

 

 ブルペン陣の左腕では、「ツーシームが通用する」(稲葉監督)と判断した巨人の中川皓太と「腕が遅れて初見では打ち辛い」(稲葉監督)と期待を寄せる阪神のセットアッパー岩崎優の2人が選ばれたが、楽天の“守護神”でWBC経験のある松井裕樹が外れた。

 

  松井の今季成績は防御率0.84、0勝2敗で18セーブ。  またブルペン陣の右腕では、昨年、調子を落とした山崎康晃に代わって横浜DeNAではクローザーを任されている三嶋一輝が選ばれなかった。三嶋ではなく山崎を選んだ理由として稲葉監督は、「ブルペン陣のリーダー役への期待」としている。

 

  ロッテからの選出選手はゼロで、防御率1.88の安定感のあるセットアッパーの唐川侑己も選外。国際試合に有効な変則タイプでは、需要があっても不思議ではなかった中日の又吉克樹が漏れ、プレミア12で活躍したソフトバンクの高橋礼も今季はチームで結果を残せていないため外れた。「ゴロを打たせることができる。クイックができシンカー系の特殊ボール。ああいう投手は初見では打ちにくい」(稲葉監督)と阪神のアンダースローの青柳晃洋が選ばれた。先発、中継ぎの両方での起用が予定されている。

 

 野手では捕手がソフトバンクの甲斐拓也、広島の會澤翼の2人制となり阪神の梅野隆太郎が落選した。打率.225は、広島の會澤の.278よりも悪いが、得点圏打率.381はリーグトップで阪神の快進撃を支えている一人。梅野は強肩に加え走力もあるが、プレミア12で見せた會澤のリード面を含めた経験値の高さが評価された。

 

  ただ曾澤は15日の西武戦で足を怪我してゲームを途中で退いており、「昨日、足を痛めたようなので球団関係者の報告を待っている最中。話を聞いてから今後どうするかを決めていきたい」と稲葉監督。現時点では内定の状況でメンバーの入れ替えはまだ可能だという。

 

  阪神では“怪物ルーキー”の佐藤輝明も外れた。16号をマークしている一方で、両リーグワーストの三振数88の不安定さが、短期決戦の五輪では怖かったのだろう。  同じく巨人の岡本和真もメンバー入りできなかった。三塁のポジションが重なることから村上か、岡本かの選択だったのだろう。岡本がセの打点トップで村上が20本を打ち本塁打でトップ。岡本は国際試合で結果を残せていないことが引っかかったのかもしれない。

 

   稲葉監督は村上を選んだ理由としてパワーと共に「守備も安定し、1試合の中で修正能力があり実力がついてきた。あの若さでピッチャーに声をかける姿とか、顔つき、体つき、プレ―スタイルも大きく成長した」と絶賛していた。

 

  プレミア12では稲葉監督がそのリーダーシップを絶賛したソフトバンクの松田宣浩が、三塁を守ったが、今季の打率.241、7本、28打点の数字では、さすがに選出は難しかった。

 

  走塁のスペシャリストとしてプレミア12では、重宝されたソフトバンクの周東佑京も選から漏れた。稲葉監督もスペシャリストの選出には議論があったというが、28人から24人に人数を削る作業の中では代走要員を入れる余裕はなかったのかもしれない。ただ13人の野手の顔ぶれを見てスピードのある選手が、西武の源田壮亮、ソフトバンクの柳田悠岐、ヤクルトの山田哲人の3人しかいないのは気になる点。

 

  安打数でパのトップに立つロッテの荻野貴司、阪神のスピードスターの近本光司も選から漏れた。外野の守備固め要員もいない。

 

  メンバー入りしたソフトバンクの栗原陵矢は、内外野に加えて捕手もこなすユーティリティプレーヤーで人数制限のある国際試合では貴重な選手だが、どちらかと言えば打撃優先のプレーヤー。また楽天の浅村栄斗は、守備機会があるとはいえ、本来の守備位置ではない一塁で起用する考えで、西武の外崎修汰が間に合わなかったことでチームバランスとしては、守備力と機動力を生かすようなスピードの面に欠ける構成となった。 

 

 稲葉監督は「守備軽視というわけではなく投手中心の守りの野球をやっていくメンバーを選んだつもり」と説明している。

 

  若手を除くと、今季の成績や現在の調子より、国際試合経験と実績重視で選ばれた傾向が目についた。北京五輪ではコンディション不良の選手を何人かメンバーに入れてうまくいかなかったという例もある。ただ稲葉監督は、その北京五輪の代表メンバーの一人。その経験に加え、2017年から侍ジャパンの指揮を執ってきた成功と失敗を糧に金メダルを獲るために選んだ“24人の侍”である。悲願の金メダル獲得へサイは投げられた。