米ホワイトハウスは12日、半導体のサプライチェーン(供給網)を巡り、米インテルなど半導体メーカーや自動車大手、計19社とオンライン会議を開いた。バイデン大統領が「米国が再び世界を主導する」と国内生産の拡大に意欲を示す背景には、膨らみ続ける台湾への依存リスクがある。

 

台湾の半導体受託生産会社が1年間生産をストップすると、世界の電子産業は1年間で4900億ドル(約50兆円)の減収に見舞われる――。米国半導体工業会(SIA)が1日に発表した報告書は「極端な仮説」と断ったうえで、半導体業界における台湾メーカーの存在感の大きさを浮かび上がらせた。

英調査会社オムディアによると、世界の電子機器産業の市場規模は20年に2兆4000億ドル。単純比較はできないが、4900億ドルの減収はその2割に相当する。

受託生産の分野は世界の半導体サプライチェーン(供給網)のアジア依存を象徴する。台湾のトレンドフォースによると、受託製造の領域で台湾積体電路製造(TSMC)など台湾勢のシェアは64%に達する。アップルをはじめとする多くの米IT(情報技術)大手を顧客に持つ。

米クアルコムなどは先端半導体の開発・設計に徹することで業界での存在感を高めてきた。工場を持たないクアルコムのような「ファブレス」企業が成り立つのは、TSMCのような企業に生産を託してきたためだ。

日本勢も例外ではなく、ルネサスエレクトロニクスは製造の約3割を台湾勢など受託製造企業に委託している。だが、万一、中国が台湾を影響下に置くような事態になれば、世界の半導体調達は根底から揺らぐ。

 

半導体産業が国際分業をてこに成長した結果、生産はアジアの特定地域への集中が進む。ボストン・コンサルティング・グループによると、工場立地別の生産能力シェアは2020年に台湾と韓国が世界の43%を占めた。米国の同シェアは12%と過去20年で7ポイント減り、シェア15%の中国にも抜かれた。

生産の集中で効率性は高まった半面、地政学リスクや災害リスクへの備えは見過ごされてきた。実際、足元の世界的な半導体不足によって米国や日本の自動車メーカーは減産を余儀なくされている。

12日の米ホワイトハウスでの会議で、バイデン氏は国内投資に500億ドル(約5兆5000億円)を補助する自身の法案に「超党派の支持がある」と指摘し、議会に成立を呼びかけた。ただ、各国がサプライチェーンの自前化を推し進めれば、市場のバランスが崩れる危険性もはらむ。

SIAの試算によると、自給自足の供給網を築くには米国で3500億~4200億ドル、中国では1750億~2500億ドルの先行投資が必要となる。コストをそのまま半導体価格に転嫁すれば35~65%上昇することになるという。逆に逼迫した需給が正常化すれば今度は供給過多に陥るリスクも抱えている。

自前化のコストやリスクは、目前の半導体不足より大きなダメージとなって跳ね返り兼ねない。分業化を進めてきた世界的な供給網を各国間でどのように維持、協調するかも今後の大きな焦点となる。