世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が11日、新型コロナウイルスについて「パンデミック(世界的大流行)とみなせる」と表現した。感染の抑え込みを急ぐ日本国内の状況に変わりはないものの、医療機関には一段の感染拡大に不安も広がる。東京五輪・パラリンピック関係者も「局面が大きく変わった」と、開催への影響に懸念を示した。

 

■医療機関に懸念

 

テドロス氏の発言について、厚生労働省の担当者は「日本の感染状況に大きな変化があったとは認識していない。これまでの対策を緩めることなく徹底する」と説明。国内で散発する小規模な感染者集団(クラスター)への集中的な対策などを続ける考えを示した。

医療機関には危機感も広がる。「これからは専門機関だけでなく、一般の診療所でもコロナのリスクと向き合わなくてはならないだろう」と話すのは東京都調布市の西田医院の西田伸一院長だ。

同院ではマスクやアルコール消毒液の在庫が1カ月分もない。防護服やゴーグルなどは備えておらず、大急ぎで注文した。院内には電話診療を推奨する旨の張り紙をし、外来患者は半減した。ただ「患者の容体の変化も気がかり。どこまで電話対応に切り替えていいのか」と悩む。

東京都杉並区の浜田山病院の小瀬忠男院長も「国内の感染者が増え続ければ、クリニックなどでも治療する方針に変わるかもしれない。将来的に患者を受け入れることを意識しておく必要がある」と気を引き締める。

もっとも、48床ある病床はほぼ埋まっており「隔離できる部屋は限られ、入院を多く受け入れるのは難しい」。風邪の症状などでも感染の不安を感じる患者が増えており「過剰に恐れず、手洗いなど対策をとり続けることが大切」と訴える。

 

■五輪計画に影響

 

東京五輪の開催計画にも影響を及ぼしそうだ。大会組織委員会の森喜朗会長は、テドロス氏の発言より前の11日に「(開催準備の)方向は変えない」と説明した。東京都の小池百合子知事も12日、都庁で開かれた新型コロナウイルスの対策会議の後、「五輪への影響はないとはいえない。中止はあり得ないが、組織委やIOC(国際オリンピック委員会)と連携して全力で開催に向けて進んでいきたい」と述べた。

ただ、都のある幹部は「局面が大きく変わった」との認識も示した。IOCが都や日本オリンピック委員会(JOC)と結んだ開催都市契約では「大会参加者の安全が深刻に脅かされると信じるに足る合理的な根拠がある場合」は、IOCが中止を判断できる。組織委幹部は「IOCに感染症に関する知見がないため、WHOの意見が大きく影響する」とみている。

無観客でも大会の開催は可能とする見方もあるものの、世界的大流行となれば「海外の選手が日本に来られなくなる」(内閣官房の五輪担当者)。大会関係者は「今後、WHOとIOC、組織委の幹部クラスで協議を重ね、状況を見極める必要がある」と話した。

 

■イベント自粛長期化も

 

既に自粛が広がっている各種イベントの先行きも一段と不透明になりそうだ。

4月25、26日に宮城県登米市で開催予定の「東北風土マラソン&フェスティバル」の主催者は「WHOの見解は無視できず、開催可否の検討材料の一つになる」と受け止める。「今は開催に向け準備しているが、来週以降、協議して可否を決める」という。

ランナー以外を含めて2019年には4万5千人が参加した大型イベント。運営スタッフは消毒の徹底やマスク着用など感染防止対策を立てているが、遠方からの来場者も多く、早めに可否を判断したいとしている。

茨城県鹿嶋市の鹿島神宮は、奈良時代から続く無形民俗文化財「祭頭祭」の主要行事「祭頭囃(ばやし)」について「開催の見通しが立たなくなった」と頭を抱える。

当初14日の予定だった開催の延期を既に決めているが、開催自体が不透明になってきた。担当者は「自粛が広がって社会が動き出しそうにもなく、パンデミック表明でさらに追い打ちがかかった」と話した。