25日の米債券市場で長期金利が史上最低を記録した。新型コロナウイルスの拡散で、安全資産の米国債へのマネー逃避が止まらない。見逃せないのは金利が急低下しても、株安の防波堤にならない点だ。米景気の減速が金利低下だけでは跳ね返せないと市場が見越し始めた。新型コロナの流行に歯止めがかからなければ株価の調整が深まるリスクがある。

 

米10年物国債の利回りは1.30%を付け、2016年に付けた過去最低(1.32%)を更新した。年明けから0.6%近くも低下。景気後退の予兆とされる「逆イールド」(長短金利の逆転)はさらに深まった。

19年には長期金利が下がると、景気を下支えするとの期待から株価が持ち直す場面が多かった。ところが今週に入ってからは長期金利が急低下しても米国株は持ち直すどころか2日連続で大幅安となった。ダウ工業株30種平均の2日間の下落幅は1911ドルと過去最大を記録した。株価と金利が同時に落下する構図になっている。

金利低下と株安が併存する1つの理由が需給面の動きだ。米リッパーの集計では24日には世界の株式ファンドから43億ドル(約4800億円)の資金が抜け出し、代わりに債券ファンドには30億ドルが流入した。先週まで堅調だった株価が急落したことで、運用上の株式保有のリスクが急上昇した。リスクを抑えるため、価格変動の小さい債券へと資金をシフトさせる動きが一気に強まった。

 

それでも従来なら、金利低下が株安に歯止めをかけていた。株価が下げ止まらないのは「投資家は株価を評価するうえで、超低金利はもはや追い風とみなさなくなった」(モルガン・スタンレーのマイケル・ウィルソン氏)ためだ。

ウィルソン氏が着目するのは長期金利から物価上昇率を差し引いた実質金利だ。足元では実質金利がマイナスに転じている。過去には11~13年ごろに米実質金利は大幅にマイナスとなったが当時も株価は軟調だった。ウィルソン氏は「市場参加者は実質金利のマイナスを技術的なシグナルだとみている」と指摘する。

もう一つは米連邦準備理事会(FRB)ですら利下げ余地が限られている点だ。21日、ニューヨークで各国の中銀幹部や学者、金融関係者が集う討論会があった。焦点は「次の景気後退時に中銀はなにができるか」。FRBのいまの政策金利は1.50~1.75%。ブレイナードFRB理事は「過去の景気後退時の対応と比べ、半分程度しか利下げができない」と認めた。

しかも2年債は1.2%を割り込むなど、期間の長い金利はすでに政策金利より先回りして低下が進んでいる。0%の下限はすでに意識され始めている。市場はすでにFRBの年内の利下げを織り込みにいっているが、それだけで株式投資家の心理を好転させるにはいたらない状況だ。

23日に閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも議論の中心は新型コロナだった。各国の政策を総動員する姿勢を共同声明に盛り込んだが、これは金融緩和余地に限りがあり、財政に頼らざるをえないことの裏返しでもある。新型コロナが収束せず、各国当局の結束が遅れれば市場の動揺は一段と深まりかねない。