イクリプスが家を訪れた時、その家の主は倒れていた。それも、床の上に。

「りっ、リクオレ殿おおおお!?」

とりあえずベッドに移動させて、寝かせることにした。

寝かせてから数分後、リクオレが目を覚ましたので、イクリプスはなぜ倒れていたのかを聞いてみた。

「………まあ、気にする…こ、とはない…。…我は、大丈夫……だ…。」

その話しぶりからして明らかに大丈夫でないことぐらい誰が見てもわかる。

イクリプスはとっさにリクオレの額に手を当てる。

「す、すごい熱ではないか!大丈夫であればそのようなことがあるわけなかろう!」

あわてるイクリプスにリクオレはなおも平気だと告げる。

「おっ、お前、なっ、それだけの高熱を患ってなおも何ともないなどと…!」

イクリプスはそこまで言うと、ばかばか…とばかを連呼しながら洗面所へと走り出した。

すると数分後にイクリプスが水の入った洗面器とタオルをもって戻ってきた。

「我は…看病など……頼んでなど……いないぞ……。」

「某は看病する!と申しているのである!リクオレ殿はおとなしく…っはわっ!」

ばしゃん。

「………イク?……我に、何が起こったのか…………説明、して…くれるだろうか…。」

「……そ、某が…その…躓いて…リクオレ殿に…水がかかっただけである…。」

もってきたタオルは幸い濡れてなかったらしく、乾いたタオルでかかってしまった水を拭き取りながらイクリプスは今起こったことをありのままに話した。

イクリプスは絶対怒られる、と思っていた。

が、被害にあった本人からは思いもよらない言葉が返ってきた。

「…ぬれタオルを…頭に、載せるんじゃなくて……水を、ぶっかけるなんて…主しか…思いつかん、だろうな…ふふっ……。」

イクリプスは、こいつ話聞いてねぇ…などと思いつつも水滴をふき取り、しっかり片づけてリクオレに言った。

「今日はお酒は控えるべきであるぞ!あ、あと、安静に寝るべきである!あああ明日来てもまだ治ってなかったら当分はお酒禁止にせねばならんぞ!」

…言ったというより、叫んだ。


そして次の日そこには普通に酒を呑んでいる、額にひえぴたを張ったリクオレの姿があったのだった。

もちろん、その直後イクリプスに酒を没収されて前日と同じパターンで水をかけられたのだが。


イクリプスは数日後リクオレに改めて、なぜ倒れていたのかを聞いてみた。

するとリクオレは、前の日の夜に、丘の上で月見酒をひとりで呑んでいたのだと言った。

その日の明け方は夏にしては妙に冷え込んだため、その急激な温度変化により風邪をひいたらしい。

イクリプスは「リクオレ殿の、ばかーっ!」と叫んでその場から走り去った。

その場にひとり取り残されたリクオレは、今度感謝とお詫びに団子でも持って行ってやろうか、などと呟きながら家路へとついたのだった。


今日も平和だ、などと思いながら。