海面の上と、海面の下では、世界が全く違う。

僕は海面の上で、君が海面の下。

海面は境界線。海面マージナル。


「のぅ…【裏庭】の我…そっちの【庭】は楽しいかえ?」

少年は青年に話しかける。

「そんなめんどくさい呼び方やめい。我のことはワタでよい。我も主も元は【同じ】なんじゃからの?わだつみ。」

青年―ワタは、少年―わだつみに話しかける。

全く知らない人から見れば、髪色を除いてとてもそっくりな兄弟に見えるだろう。

「そうか、ならばワタどの、そっちの【庭】は楽しいかえ?」

さっきと同じ質問を繰り返すわだつみ。

「まー…そこそこ楽しいんじゃないかの?まぁ、そっちの【庭】と同じ感じじゃろう?なんせ【裏庭】じゃからの。」

答えになっていない答えを返すワタ。

「そうか…【庭】での乱れが【裏庭】にまで及んでなければよいのじゃが…。」

「乱れ?何かあったのかえ?」

意味深な答えを返すわだつみにワタはものすごい速さで食いつく。

「……まぁ、の…。最近、我の周りの【神宿し】の者たちが【外】の記憶を少しつづ取り戻しているときいているのじゃ…。じゃからそっちの【神宿しの影】の者たちに影響がないか…心配での…。」

それを聞いたワタはふっと表情を緩め、わだつみの頭を撫でて言った。

「それは記憶神レイラセーネの仕業じゃ。気にすることはない。レイラセーネの仕業とあらばこちらには影響はない。主が心配するようなことではないぞ。」

「ワタどの…。」

突然頭を撫でられたせいかきょとんとするわだつみにワタは、主は優しいんじゃな、と呟きながらなおも頭を撫でる。

「さ、そろそろ時間じゃぞ?早く戻らねばセラとラセのような状況を作ってしまうからの。」

ワタはわだつみの頭を撫でていた手を離し、海の方へと向かっていく。

「じゃあまた今度じゃよ、ワタどの!」

「あぁ、また今度、じゃ!」



海面の上の砂浜と海面の下の海底では世界が全く違う。

同じ【庭】でもそこは【裏庭】。

【裏庭】と【庭】は同じようで何か違う。

我が海底、主が砂浜。

海面は境界線。海面マージナル。