それはあまりにも突然だった。

その日もいつもみたいに、“家族”の話を笑顔で聞いていた。

その日もいつもみたいに、心がきゅううっとなる。

その日もいつもみたいに、いいわけをして部屋へと向かう。

その日もいつもみたいに、誰にもばれないように、ひっそりと泣く。…予定だった。

だって、泣くなんてかっこ悪い。

泣き顔なんて、誰にも見せたくない。

ついでに、部屋も誰にも見せたくない。

だって、身長170もある17歳の“男”の部屋が、ぬいぐるみでいっぱいだなんて。

そんなの、恥ずかしすぎる。

だからいつも泣くときは、自分の部屋にこもって、ぬいぐるみを抱きしめて、泣くんだ。

だから今日もいつもみたいに部屋にこもってぬいぐるみを抱きしめて、泣いてた。


それはあまりにも突然だった。

「何ぞ汝 泣けにけりか?」

「!?」

その人は、窓辺に腰かけていた。

まさか窓から侵入されるなんて思ってなかった。

今まで、絶対に他者の侵入を許さなかったこの部屋に、いとも簡単に侵入を許してしまったのだ。

それも、窓から。

「え、えと…別に泣いてなんてないですよぅ。」

ばればれの嘘だ。ばれないわけがない。

そんなの自分でもわかってる。けど、それを言わずにいれなかった。

「嘘ならむ。」

「むぅぅ…」

やっぱり簡単に見破られてしまう。草は口ごもることしかできなかった。

「と、とにかく、今はあんまり人に会いたくないんですぅ!出てってくださいですぅ!!」

そういってベッドに飛び込んで、その人に背を向けてうずくまってしまった。

「…そふや。」

その人は草のことを気にかけながら飛び去って行った。

口ではそう言ってしまったものの、本当はすごく嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。

泣いている自分に、話しかけてくれたことが。


それが彼――尊との出会いだった。