その少女は赤い風船を繋いだ紐を
とても力強く握りしめていた
何があっても
飛んでいってしまわないように
とても強く、強く
赤い風船の中に
夢
希望
素敵な未来
少女が想像出来る限りの
素晴らしい世界があると信じていた
その風船を手放さなけれ
必ず夢は叶うと信じていた
寝ている時も
紐を腕に縛って
お風呂にもトイレにも
手元から離さずにいた
数日経ったある日のこと
その状態を見かねた少女の母親が
寝ている間に
風船を腕から外してしまった……
朝起きた少女は
赤い風船が無くなっていることに気付き
泣き叫んだ
「赤い風船がないと私は
幸せになれないのに」
そう言いながら何日も何日も
泣き崩れていた
赤い風船が手元から
無くなってからというもの
少女は
赤い風船のことばかりを
考えるようになった
赤い風船があれば…
赤い風船があれば…
少女の頭の中には
いつも架空の赤い風船が
存在する様になっていった
少女はそのままの状態で
何十年という月日を過ごし
大人になっていった
大人になった彼女は
頭の中に存在する赤い風船のことを
すっかり忘れ
夢
希望
素敵な未来
全て忘れて生きていた
何をすれば
自分の人生が輝いて
生きている実感を感じられるのか
彼女は
思い出したかった
思い出したいと強く願っていた
ある年の夏の日
まだ夜が明ける前に
薄く目を覚ます
夢と現の境い目の時
頭の中で〝バンッ〟と
大きな音がした
彼女は思い出した
頭の中に赤い風船が存在していたこと
そして
「赤い風船が割れた」
そう彼女は呟く
少女の頃
赤い風船の中に詰め込んだ
夢
希望
素敵な未来
次から次へと溢れてくる
彼女の目から
涙が次から次へと溢れてくる
赤い風船は
彼女が夢を叶えられる
その時まで
待ち続けてくれた
涙の数だけの
沢山の夢を
彼女はこれから体験する
「赤い風船はもういらない
ありがとう」
彼女は長い時間をかけて
赤い風船を手放すことが出来た
END

