2024年3月20日(水・祝)14時開演

2024年3月23日(土)14時開演

リヒャルト・ワーグナー
トリスタンとイゾルデ
Tristan und Isolde / Richard Wagner
全3幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉
約5時間25分(第1幕85分 休憩45分 第2幕70分 休憩45分 第3幕80分)

 

【指 揮】大野和士
【演 出】デイヴィッド・マクヴィカー
【美術・衣裳】ロバート・ジョーンズ
【照 明】ポール・コンスタブル
【振 付】アンドリュー・ジョージ
【再演演出】三浦安浩
【舞台監督】須藤清香

 

【トリスタン】ゾルターン・ニャリ
【マルケ王】ヴィルヘルム・シュヴィングハマー
【イゾルデ】リエネ・キンチャ
【クルヴェナール】エギルス・シリンス
【メロート】秋谷直之
【ブランゲーネ】藤村実穂子
【牧童】青地英幸
【舵取り】駒田敏章
【若い船乗りの声】村上公太
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京都交響楽団

 

今シーズンの新国は、修女アンジェリカ/子供と魔法、シモン・ボッカネグラ、そしてトリスタンとイゾルデ(もしかしたらベニーニの指揮なのでトスカも観るかも・・)を選んで観ていますが、2010年のマクヴィガーの演出が素晴らしく、またウェストブロックがイゾルデということで2公演観ることに。その後、4月の東京春でもヤノフスキのトリスタンが発表され、そしてウェストブロックも降板ということで、やってしまったかと思っていたのですが、かなり満足度の高い公演となりました。

 

先ずはマクヴィガーの演出、大野も語っているように脚本に忠実で、歌詞と全てが連動し、そして象徴的な月・太陽(夜と昼)が美しい。ダンサーの動きは少し如何なものかと思う部分があるものの、照明や衣装など全体として非常に良く出来たもの。そこまで複雑なセットではないので是非トスカと並ぶ新国定番演出として貰いたいものです。そして大野・都響の演奏、ここ1~2年のこの組み合わせの良さが出ていました。全体として咆哮することなく、ピークでビンビンに響くということはないのですが、静的ではあるものの確りと内燃しており、特にチェロパート、木管ソロなどはうねりもあり、また歌手と非常に合っていました。都響を起用した意味は十二分になったと言えるでしょう。カーテンコールでも指揮者とオケに盛大な拍手が送られていました。

 

イゾルデのキンチャ、タンホイザーのエリーザベトでは堅実な歌唱でしたが、今回のイゾルデは声が前に確り飛んでいると共に、演技面も手堅い。第1幕の第3場の真摯な歌唱は両日ともに素晴らしい。第2幕の愛の歌は2010年の上演時はテオリンのヴィブラートが強過ぎて集中できなかったのですが(グールドは素晴らしい、尚、テオリンは終始叫びの美学で進んでいましたが、演技、特に眼がスゴイのを強烈に覚えています)、今回は大野のかなり速いテンポに乗りながら、ニャリとのバランスも良く、また(確信は持てないですが)やや冗長となりがちな昼の部分をカットされていて集中して聴くことができました。そして第3幕の愛の死、これが良く歌い込まれて素晴らしい、特に20日の歌唱は感動的だったと言って良いと思います。

 

ブランケーネの藤村実穂子、いやはや素晴らしいの一言。全てのレパートリーの中でブランケーネが一番合っていると明言して良いでしょう。臭い演技とは別次元で、一つ一つの動きが完全にコントロールされていて、またキンチャの声との対比も明瞭、出番の多い第1幕の歌唱は勿論、第2幕の警告の歌、これが良い!(特に20日)。昔ルツェルンでアバドが演奏会形式でトリスタン第2幕を上演した際、ブランケーネを歌ったのが藤村、あの頃に比べると声量は少し落ちたかとは思いますが、表現は今の方が断然上。声のためにかなりストイックな生活をしている話を聞いたことがありますし、ドロドロした舞台裏がある欧米のオペラハウスで長年生き残り、信頼されてきたことも納得です。尚、2010年の時のツィトコーワはブランケーネとしては若すぎて、あの奇跡的なオクタヴィアンの歌唱(いまだに過去ナンバーワン)からの期待値からすると一寸物足りなったのも覚えています、いまツィトコーワどうしているかしらむ。

 

ハンガリーのニャリのトリスタン。全く知らない歌手でしたが、キャンセルしたケールも調子がここ数年スランプ的な話も聞こえてきていたので、交代は結果として良かったのかもしれません。他の歌手に比べると声量が少し足りない印象でしたが、第1幕の決めや、第3幕第2場などの歌唱は真摯で声量もありました。美点はキンチャもそうですが、音程の素晴らしさ、なので二人の第2幕の長大な愛の歌が大声で押すのではなく、デュエットとして、大野都響の見事なオケの演奏もあり、非常に音楽的なものだったのは私としては好感が持てました。あのとてつもない声量のウェストブロックとニャリであれば、こうはならなかったでしょう。ニャリは23日の方が完成度は高かった思います。前回はグールドが初役でトリスタンを演じていました。その後の公演での歌唱を考えると、直線的ではありましたが、この希代のテノールの名に恥じぬ素晴らしいものでした。

 

クルヴェナールのシリンスの歌唱、ベテランらしく確りしたもので、直情的で忠実な忠臣の歌唱として素晴らしいものでした。演技は一寸定型的になってしまっていた面もありましたが、第3幕の戦いの場面を中心に聴き応え十分でした。2010年ではラジライネンのクルヴェナールが最高の出来栄え。前回はトリスタンのグールドとラジライネンの男声2人の歌唱が圧巻でした。

 

マルケ王は、若手から中堅となってきたシュヴィングハマー、FMでバイロイトの歌唱を聴いたことがありますが、ステージでは初めて。バスでもモル、サルミネン、ヘレなどの深い声というよりも少し軽い声ですが、その響きは魅力的。まるで北斗の拳のトキのような出で立ちでしたが、要点を押さえた良い歌唱でした。前回のイェンティウスは声量がなく一寸期待外れでした。

 

他では、舵取りの駒田は短い出番ながら良い声。メロートの秋谷は芯が真っ直ぐなっておらず一寸・・・、過去の秋谷も同じ印象。また牧童の青地は、牧童には全く見えず、声も素直に真っ直ぐ飛んでいない。これはもっと若手を起用した方が良かったでは?若い船乗りは村上公太、20日の方が圧倒的に出来栄えは良かったですが、23日は一寸調子が悪かったのでしょうか?

 

演出、オケ、主役級の歌手のバランスなど考えると、シモンと並ぶ今シーズンの新国の目玉公演は十分成功したと言えるではないでしょうか?来週はハルサイでのトリスタン、エッジの効いた演奏になることが予想されますが、さてどうなるか楽しみです、では。

 

 

(↓2010年12月~2011年1月 前回上演)