2023年10月8日(土)午前11時 歌舞伎座

 

 

天竺徳兵衛韓噺、松緑は演目による相性の差が著しいですが、今回は吉と出たようです。鶴屋南北の異端話、前段の古典的な時代様式から後段の外連味一杯の舞台。良く練られていて。かなり昔に国立劇場で観たような、誰だっかかな。

 

 

寺島しのぶが出演するということで話題の舞台。この日もそうですが、この月の午前の部は完売の日もかなりあったようで、70~80代幹部の逝去や衰えや、中堅のスキャンダルなどで苦悩している松竹的には久方振りのしてやったりなのでしょうね。文七元結物語となっており、世話物古典ではなく山田洋二演出のもの。古典・落語と異なり最初から遊郭の場面、そこからお久を探す場面に戻るのは、成程その方が自然ではあるなと思わせるもの。遊郭の舞台装置でモダンでありながら、配置や配色も良く、これはありだなと思わされました。橋でのやりとりも廻り舞台の機能を上手く使いこなされていました。話題になったものの、寺島しのぶ演じるお兼の出番はそこまでは多くはないですが、存在感は流石。諸兄姉の評判は分かれているようですが、小生は面白く観ることができました。獅童の左官長兵衛、等身大の長兵衛というか、菊五郎のコミカルながら型もしっかりとした長兵衛とは別物。成程、古典ではなく、山田洋二演出でということでこのキャラクターが活き、抜擢されたということなのでしょう。お久は玉太郎が抜擢、一寸体が大きいものの、可憐で魅せるお久を良く演じていました。そして孝太郎の角海老女将お駒が抜群、孝太郎の存在が舞台を引き締めていました。

 

小生はスーパー歌舞伎の説教臭さがどうも苦手で、アニメやゲームの歌舞伎化も積極的にはなれず、正直に言えば歌舞伎座であまり演って欲しくないのですが、串田版のコクーン歌舞伎や、今回の山田洋二演出のようなものは、古典演出と並んで上演していった方が、未来に繋がる歌舞伎を作れると思っています。そういう演目は新橋演舞場、シアターコクーン、中村座でというご意見もあるとは思いますが。

 

今回は実妹と初めて一緒に歌舞伎を見ましたが、文七元結物語は面白かったらしく、また歌舞伎を見たいと言ってくれたのは嬉しかったです、では。

 

一、天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)
妖術使いの徳兵衛が躍動する、大南北の奇想天外
 時は室町時代。異国を巡り天竺から帰国した船頭の徳兵衛が、吉岡宗観の家に呼ばれます。将軍家の重臣・佐々木桂之介が、何者かの企みにより将軍足利義政から預かる宝剣「浪切丸」を紛失、詮議の期日が迫るなか、桂之介の気晴らしのために招かれました。徳兵衛は自らが巡った異国の話を面白おかしく物語り、桂之介に気に入られます。そこへ桂之介と慕い合う銀杏の前が訪ねて来たので、宗観は二人を逃します。その申し訳に切腹する宗観は徳兵衛を呼び寄せると、ある秘密を明かします。妖術を得た徳兵衛は大蝦蟇(がま)に乗って…。
 江戸時代初期に、東南アジア諸国の見聞録を残した実在の商人・徳兵衛を題材に描かれ、後に「大南北」と称される四世鶴屋南北の出世作。南北作品ならではの奇抜な趣向が散りばめられ、お家騒動が巻き起こる序幕からケレン味あふれるクライマックスまで、ひとときも目の離せない展開が続きます。日本転覆を狙う徳兵衛が繰り出す数々の妖術や大蝦蟇の出現など、スケールの大きな物語にどうぞご期待ください。

二、文七元結物語(ぶんしちもっといものがたり)
笑いあり涙あり、新たな構想による心温まる人情噺
 左官の長兵衛は腕の立つ職人ですが、大の博打好きで貧乏暮らし、女房のお兼とは喧嘩が絶えません。そんな家の苦境を見かねた娘のお久は、吉原に身を売ることを決意。この孝心に胸を打たれた角海老の女将お駒は、お久のためにも心を入れ替えるように諭し、長兵衛に50両の金を貸し与えます。娘の思いとお駒の情けにすっかり目が覚めた長兵衛でしたが、その帰り道、身投げをしようとしている若者、文七と出会うと…。
 幕末から明治にかけて活躍した落語家の三遊亭圓朝が口演した人情噺「文七元結」は、歌舞伎でも『人情噺文七元結』として愛されてきた人気作です。このたびの上演では、山田洋次の新たな構想により脚本・演出を一新。歌舞伎の古典作品とはまた違った魅力を放つ、『文七元結物語』が誕生します。江戸市井に生きる人々の心の機微を丹念に描き出す、笑いあり涙ありの心温まる物語をご堪能ください。