2023年7月23日(日)15:00
Bunkamura オーチャードホール
 

第988回オーチャード定期演奏会 

ヴェルディ/歌劇『オテロ』
全4幕・日本語字幕付き原語(イタリア語)上演
原作:ウィリアム・シェイクスピア『オセロー』
台本:アッリーゴ・ボーイト
公演時間:約2時間50分(休憩含む)


指揮:チョン・ミョンフン(名誉音楽監督)
オテロ(テノール):グレゴリー・クンデ
デズデーモナ(ソプラノ):小林厚子
イアーゴ(バリトン):ダリボール・イェニス
ロドヴィーコ(バス):相沢 創
カッシオ(テノール):フランチェスコ・マルシーリア
エミーリア(メゾ・ソプラノ):中島郁子
ロデリーゴ(テノール):村上敏明
モンターノ(バス):青山 貴
伝令(バス):タン・ジュンボ
合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:冨平恭平)

 

この2,3年、コロナ禍ではあったものの、東京でのヴェルディ上演は、ムーティの東京の春音楽祭(マクベス、仮面舞踏会)、チョン・ミョンフン・東フィル(ファルスタッフ)、新国立劇場(リゴレット)など内容が充実した公演がありました。今回はチョン・ミョンフン東フィルの定期でのヴェルディのオテロ、果たして・・。

 

タイトル・ロールはグレゴリー・クンデ、かつてはロッシーニテノールとして名声を博し、40代から徐々にロブストに移行し、近年はオテロ、マンリーコ、カラフなどをレパートリーの中心にしていますが、御年69歳とは考えられない素晴らしい響きの声、低音がそこまでは響かないのは純ベルカント系の人なので仕方ないですが、中音から高音にかけては、ギアチェンジせずに、力強くもフレージングも滑らか。数年前にロイヤルオペラでもオテロを聴きましたが、その時よりもずっと歌にドラマがあり迫真的で素晴らしい。

 

生で聴いたオテロでは、ドミンゴはオテロを歌っていた最晩年のワシントンの公演で、演技は誰よりも上手く迫真的で大いに感銘を受けたものの、声量は既にかなり落ちていていました。マルティヌッチやジャコミーニは全曲ではなくハイライトでしたが、ドラマティックな歌唱でオテロ歌唱の模範、二人共に喉が開き、圧倒的、全曲で聴けなったのが残念。そして色々と裏切られることが多いホセ・クーラ、実演で唯一感動したのが、ポーランド国立歌劇場の来日公演でのオテロ、簡素なセットながら工夫されてたもので、デズデモナのタマル・イヴェーリの理想のデズデモナの歌唱もあり大いに感動し、痺れました(特に第4幕)。スカラ座、ロイヤルオペラ、新国でのオテロ上演は上記に比べると感動までは至りませんでした。今回のクンデのオテロはどの歌手とも違うし、声圧自体は相対的には劣りますが、歌そのものがドラマ表現として卓越したもので、大いなるポジティブサプライズでした。冒頭から最後までこのテンションで歌えるのは本当に凄い。

 

デズデモナは小林厚子、コロナ禍の新国での活躍で一気にメジャーな存在に。今回ロールデビューとのことですが、第1幕のデュエット、第4幕の柳の歌など、声に素直な伸びがあり美しい、クンデ相手に対等な歌唱で見事。今年1月の藤原歌劇団で小林が主役を務めたトスカの公演のFM放送があったので、ところどころ聴いてみたのですが、別人のよう。夜のFM放送でリサイタルも聴いたこともあったのですが、こちらも粗くて。。どうやら小林厚子は実演の方が圧倒的に素晴らしい傾向の人なのかも。それにしても、今回のデズデモナは名唱でした。

 

イヤーゴはおなじみ長髪イェニス、ファルセット気味に歌う場面では奥まって歌ってしまうクセは変わらずでしたが、こちらも過去のどの歌唱よりも堂にいったもの。迫力だけのイヤーゴ歌唱も多い中、演技も含めてこちらも素晴らしいものでした。カッシオのマルシーリアは若干日和見気味なこの役処に合ったもの、ここは伊藤などを起用しても良かったかも。

 

そしてチョン・ミョンフンの指揮の知的で且つ鮮烈なこと、そしてそれに応える東フィル、新国合唱団も見事な反応。オテロは縦で区切りながらドラマティックな指揮で成功する指揮者が多い中、チョン・ミョンフンはレガートでの音楽作りとの合わせ技で、師匠のジュリーニが若い頃指揮していたら、こんな感じだったのではと思わせるもの。世評は然程ではないですが、DGのバスティーユでのこの歌劇の録音、オケだけで言えば、トスカニーニ、カラヤン、セラフィン、クライバー、ムーティなどよりも評価しています(因みにエレーデの指揮も秀逸、カプアーナの職人技が光る場面もお気に入り笑)。あの録音での緻密な作りに比べると実演なので、こだわりは若干後退しているものの、得難い指揮であるのは間違いのないところ。

 

ファルスタッフに続き、今年も素晴らしいヴェルディを聴かせて貰えました。来年も継続してくれるのかしらむ。チョン・ミョンフン得意のドン・カルロを希望したいところですが、演奏会形式としては長過ぎるかも、、、では。