2023年7月8日(土)11時開演
今回の公演は様々な評価が飛び交っていますが、結論から言えば、今月のこの公演は見応えがありました。ピュアな古典では中車の過剰な表現の演技は一寸ついていけないところがありますが、忠臣蔵のスピンオフであるこの斧定九郎の物語は大胆で外連味がある澤瀉屋らしい作品。スーパー歌舞伎は歴史物でもメッセージを入れ過ぎ説教臭くて観られないのですが、この作品は嵌りました。この作品、斧定九郎と並んでの主役は実は下部与五郎、今回歌之助は良い勉強になったと思いますし、型はまだまだなれど大いに資質を感じさせるものでした。しかし最後の宙乗り、右左での往復、そして屋根上での大胆な立ち廻り、前半寝ていた外国人親子もかなり興奮していました(笑)。
2023年7月16日(日)16時開演
左團次が亡くなり、息子の男女蔵がこれからは彌十郎に続く存在として、敵役を色々と勤めていくことになるのでしょう。この渡守頓兵衛は初役だそうですが、存在感は十分、一寸力が入り過ぎていたかな、いつか意休を観てみたいものです。児太郎が女形の大役、お舟を。ばたばたのきらいが見えましたが、この役はそうなのだから仕方がないかと。傾城うてなの廣松、最近女形としてめきめき頭角を現してきています。何といっても姿が美しい、これから伸びるのでは?
成田屋は、世話物のめ組の喧嘩、2部制に戻り久方振りに省略なしの舞台を観ることができました。全部観ると途中一寸ダレるのですが、團十郎もかつえ菊五郎に教えを受けたこの役、体格が良いので映えますね。今回は右團次の四ツ車が地に足のついた演技で〇、右團次の最近の舞台では一番良いのでは?こちらも最後の見せ場、これだけ大掛かりになるので、歌舞伎座も揺れるように観客が楽しんでいました。
め組の喧嘩は、まあそうか、という出来栄えでしたが、予想外に見応えがあったのが、静の法楽舞。筋書はどうってことのないもの(下記ご参照)ですが、舞台構成が上手く出来ていて、緊張感が続くものでした。今回は新之助は然程でしたが、ぼたんの踊りが板に付いてなかなかのものになっていたのはポジティブサプライズでした。今月は猿之助の件で、中車の舞台に注目が集まりましたが、夜の部も結果的に相応の水準だったと思います、では。
昼の部
通し狂言 菊宴月白浪(きくのえんつきのしらなみ)
忍術! 大凧の宙乗り!
スペクタクルな展開で描く忠臣蔵の後日譚
塩谷の浪士が高野師直を討って1年余。主君の敵討ちを果たした四十七士は義士として讃えられるなか、塩谷の家老斧九郎兵衛の息子、斧定九郎は、敵討ちに加わらず不義士の汚名を着せられた父に代わり、せめて自分は亡君への申し訳を立てたい忠義の心をもっています。そんなある日、塩谷判官の弟縫之助には塩谷家の家宝・花筐の短刀を、高野の養子島五郎には高野家の家宝・菅家の正筆を献上すればお家再興がかなうとの沙汰が。しかし、縫之助が差し出した花筐の短刀は偽物。定九郎は申し訳に切腹しようとする縫之助の身代わりを買って出ます。いざ切腹、と思われたそのとき、定九郎は…。
盗まれた家宝を奪い返すため、定九郎は父九郎兵衛から斧家に伝わる忍術秘法を記した秘書こふさきの忍びの一巻を授かります。忍術を手に入れた定九郎は、“暁星五郎”と名のり、仲間とともにお家再興に立ち上がります。
定九郎の妻加古川、かつて塩谷に奉公していた過去を持つ女伊達・金笄のおかる、縫之助の子を宿す芸者浮橋、浮橋の義理の兄仏権兵衛…。お家再興を巡り、それぞれの思いが入り乱れ、花筐の短刀、菅家の正筆はさまざまな人々の手を渡っていきます。果してお家再興はかなうのか…。
歌舞伎の三大名作狂言の一つ『仮名手本忠臣蔵』。本作はそんな赤穂浪士の討入り事件を描く「忠臣蔵」の世界を題材に書き下ろされ、「忠臣蔵」では悪役として描かれる斧定九郎がお家再興を目指す忠義者として登場します。原作の設定を巧みに用い、名場面の数々を彷彿とさせる構成で、鶴屋南北により独創性豊かに描かれた物語は評判となり大当り。昭和59(1984)年には初演以来実に163年ぶりに三代目猿之助(現・猿翁)により復活された後、「三代猿之助四十八撰」の一つにも選ばれました。花道上を大凧に乗って飛び去ったかと思うと、たちまち反対側から本舞台へ向かって舞い降りる劇場空間をいっぱいに使った両宙乗りや、大屋根の立廻り、花火など、スペクタクルで波瀾万丈な物語が息をつく間もなく展開されていきます。32年ぶり、待望の上演にどうぞご期待ください。
夜の部
一、神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)
純粋な娘が命を懸け、極悪非道な父に立ち向かう
渡し守の頓兵衛は、足利と新田の争いで、褒美の金欲しさに新田義興の命を奪った強欲者。ある日、義興の弟義峯が恋人の傾城うてなと一夜の宿を乞いに偶然にも頓兵衛の家を訪れます。頓兵衛の娘のお舟は、気品あふれる義峯にひと目惚れ。一方、義峯の素性を知った頓兵衛は、金目当てにその命を狙い…。
江戸時代に活躍した才人、平賀源内が「福内鬼外」という筆名で書いた義太夫狂言の傑作。極悪非道な父頓兵衛と愛しい人を命懸けで守ろうとする娘お舟の姿が対照的に描かれる、見せ場に富んだひと幕をお楽しみください。
二、神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)
江戸の男たちが火花を散らす、鳶と力士の真剣勝負
品川の遊廓。め組の鳶と四ツ車大八ら力士たちは些細なことから喧嘩になり、鳶頭の辰五郎がその場を収めます。しかし数日後、芝居小屋で喧嘩が再熱。一触即発の睨み合いとなるも、江戸座の座元喜太郎に止められます。気持ちが収まらない辰五郎は、密かに仕返しを決意。愛する妻と幼い子どもに別れを告げ、争いに決着をつけるため命知らずの鳶たちと芝神明へ向かい…。
「火事と喧嘩は江戸の華」を体現する粋でいなせな江戸風俗をたっぷりと味わえる世話狂言の傑作。大詰での鳶と力士の大立廻りも見せ場の一つです。江戸っ子の心意気を描いた人気作を上演いたします。
三、新歌舞伎十八番の内 鎌倉八幡宮静の法楽舞(かまくらはちまんぐうしずかのほうらくまい)
趣向を凝らした迫力あふれる新歌舞伎十八番
夜な夜な物の怪が現れるという鎌倉の荒れ寺に、怪しい風とともに現れたのは一人の老女。以前は都の白拍子であったと語る老女は舞を舞い始めます。やがて老女の姿が見えなくなると、次々と物の怪が集まり…。
劇聖と謳われた九世團十郎が制定した新歌舞伎十八番の一つ。平成30(2018)年に新たな着想により復活上演された本作を、九世團十郎没後120年という節目の年に上演します。河東節、常磐津、清元、竹本、長唄囃子の五重奏など、豊かな音楽性とエンターテインメント性あふれる、目にも耳にも楽しいひとときをご堪能いただきます。