『どうも皆さんこんにちは!今日も前回の続きから実況していきたいと思いまーす!』
彼の声は私の脳内で染み付くように反芻された。彼は有名なゲーム実況者。私と彼の世界は小さなパソコンの画面でしか交わることはない。
だからこそ、私は死にたくなるような現実から逃れるように彼の声に溺れている。
今日は嫌なことがあった。多分、他人には理解されない嫌なこと。
ほら。またスマホのメッセージアプリの通知音が鳴る。
「今日もありがとう!おかげで助かったよ!またよろしくね。」
今日の昼、大学の同期の彼女は私に課題を見せるよう頼んできた。それは日常茶飯事の出来事。
「またよろしくね。」という文字列に私は軽くため息をついた。
悪気のない厚かましさに心底あきれるとともに、こんなことを気にしている自分に嫌気がさす。そして死にたくなるのだ。
スタンプを適当に返して、スマホを充電器につなぐ。
『え、待って待って!それは死ぬ!え、無理無理!!』
彼の叫び声に私の頬は緩む。人間味のある彼の叫びが、私と同じ世界線で彼が生きていると実感させてくれる。
『いや、今のはね、皆にこういうやり方は失敗するよ?って教えてあげるためにやったの!わかる?わかるよね?』
彼の冗談に再び頬が緩む。こうして画面を通じて彼との日常を積み重ねていくうち、私と大学の同期の間にはないような暖かい関係が2人の間に形成された気がする。いわゆる「バーチャル」な関係性。
顔が見えない彼。だから私は声と言葉で彼の優しさを想像する。これだけでリアルとは違う関係だ。私はこの関係に溺れると同時に怖くなることがある。
彼とリアルで会った時、その関係は薄っぺらい「リアル」に変わるのではないか。
私はリアルな人間が苦手だ。人と話すと気を遣いすぎてしまう。人と話すと自分と比べてしまう。嫌な自分が見えてしまう。人にやさしくすることでその劣等感から逃れようとする。私の人生はその繰り返し。
そんな繰り返しのさなか、私は彼と出会った。「バーチャル」の中の彼は優しく崇高な存在に見えた。
もしも。彼が「リアル」な存在になれば。私は彼と自分を比べるのだろうか。
やっと好きになれた彼を、自分の所為で引き離してしまうのか。
『よっしゃ、無事に勝てた!』
無邪気な彼の声。
『ご視聴ありがとうございました!』
動画の終わり。いつもの彼の挨拶が私の涙腺を緩める。
私の中からいなくならないで。どうかいつまでも私の「バーチャル」でいてほしい。
聞きなれたエンドカード。
私はそっと、彼と自分の「バーチャル世界」をシャットダウンして、ベッドに潜った。