腸は第二の脳である? | 自然派医師のブログ

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微生物の中で、人と共生していて人の健康に最も大きな影響を与えているのが「腸内細菌」です。


腸内細菌を理解するためには、まず、人の腸(管)についての知識が必要になります。


腸および腸内細菌の状態がヒトの健康にとって最も大事であるといわれます。

なぜこのようなことが言われるのでしょうか?


私たちは、植物のように自らエネルギーを産生することはできませんので、食物を食べないと生きていくことができません。


食べ物を食べる(私たちが生きていく)ということは命をいただくということでもあります。


腸は、毎日食べたり飲んだりしたものを消化し、生きていくのに必要な栄養を吸収します。

体に不要な物は吸収されなかったり、さらに腸に排泄されるものもあります。


私たちの体は私たちが食べたもの、飲んだもの(他にも塗ったもの、吸ったものなどもありますが)から出来上がっています。


ですから、私たちが食べたものが私たちの体質を決め、それによって健康を維持したり、病気になったりします。



このように、腸の最も基本的な役割は食べ物の消化・吸収、さらに排泄であり、この事だけをみても、腸は生命維持にかかわる最も大切な器官であることがわかります。


腸はこれらの基本的な働き以外にも、今まで考えられて来なかったような、きわめて大きな役割を果たしていることが最近わかってきています。


人の体の構造を最も単純化すると「ちくわ」の形になります。

皮膚がちくわの外面、腸が内腔になり、人という生き物は腸そのものに見えます。口は入口、肛門は出口ということになります。


腸は人が生きるということにとっては何よりも重要な器官で、それ以外の様々な臓器などは付け足しのようなもので、人はちくわにちょこんと頭や手足、他の内臓がついている生き物と考えることもできるのです。


また、このようにみると、実は、腸は体の内部のようで、皮膚と一続きであり、腸管の内部は体の外側と考えることができます。


私たちの食べたものは口から胃、腸を通る間に様々な消化液と混ざり、消化・吸収され肛門から便として出てきます。


この時、食べ物以外の病原体(ウイルスや細菌など)も同時に入ってきます。


皮膚の表面積はたたみ1畳ほどですが、腸管は複雑な折り畳み構造をしており、表面積は皮膚の約200倍で、テニスコート1.5面分にもなります。


つまり、腸管は皮膚とは比べものにならないほどの広い面積で外界と接しており、そこからの様々な病原体の侵入を防がなければなりません


病原体の侵入を食い止めるのが免疫細胞の役割ですが、腸には人の免疫細胞全体の67割が集中しているとされており、腸は全身で最大の免疫器官でもあるのです。


また、正常な人でも毎日数千個は発生していると言われているがん細胞も腸管の粘膜で発生することが多いとされています。


たとえがん細胞が毎日発生していても、免疫細胞(つまり腸)が正常に機能していれば、いち早く異常細胞を感知し、すみやかに攻撃・排除することができます。


さらに、腸には末梢血管と呼ばれる小さな血管が全身の55%、末梢神経(脳にある中枢神経以外の神経)が全身の50%程集中しており、全身の臓器の中で最大の末梢血管組織にして最大の末梢神経組織でもあるのです。


その上、腸には、消化管ホルモンだけでなく、脳内ホルモン(神経伝達物質=神経ペプチド)のほとんどが存在し、その量は脳よりも多いことから、全身で最大のホルモン組織とも言われています


例えば、セロトニンは幸せ物質として注目されている脳内の神経伝達物質の代表ですが、このセロトニンの約95 %は腸で作られているということが分かってきています。


つまり、脳と腸とはホルモンや末梢神経を通じて互いに会話しており、腸は脳に次いで脊髄よりも神経細胞の数が多く、感情や無意識の領域でも大きな仕事をしていると考えられます


これらの事から、腸は第二の脳と呼ばれているのです。

以上みてきましたように、腸は単に食べ物が通過する管ではありません。


腸のおもな機能をまとめておきます。


①飲食物の消化および栄養素の吸収

②不要なものは吸収せず有害なものを排泄

③有害な微生物(病原体)を排除

④有用な微生物(主に腸内細菌)との共生

⑤全身の免疫機能の調節(病気になりやすさを決定している! 今後、詳しく述べます)

⑥感情や無意識の領域に関与


腸はテニスコート1.5面分にも及ぶ膨大な領域で、これらの非常に多岐にわたる複雑な機能を管理している器官なのです。


ですから、腸の状態がヒトの健康にとって最も大事であるといわれているのです。


この腸内で健康に最も重要な働きをしているのが腸内細菌です


次回からは腸内細菌について説明していきたいと思います。