つらいよう。

あいつら皆殺しにしたいよう。

でもそんなことしたらいけないんだよう。

つらいよう。

したらいけないこと、あいつらはするのに、オレはしない。
つらいよう。

つらいよう。


 字面で書いたらこんなもん。このつらさ、だれにも、久美子にもわかるまい。久美子もひとり何度でも泣いたのだろうが、久美子には、久美子に殺人未遂されても離婚したくないといえるオレがいた。しかしオレにはどうだ。オレにはそんなお前はいない。そもそもオレは殺人未遂なんかしていない。すれば良かったのか? お前はとにかく誤解している。歯がボロボロだったときの、オレの足の弱さを。
 二十代のころは踏み足の凄まじい瞬発力を持っていた。時速60km/hを安価な重たい自転車で出すのだってお手の物だった。しかし歯がボロボロになるにつれ、そして北九州市営住宅で、物音を立てるなとお前にさんざん言われてすごすにつれ、オレの踏み足は信じられないほど弱っていった。そんな足が、なんの脅威になったというのだろう。久美子、お前はとにかく児玉家の常識と低俗な女の常識ばかり押し通し、オレの常識や一般常識をことごとく跳ね除け、オレの威勢と体力を削ぎまくったくせに、オレの足ストップを食らって1ミリだって吹き飛びもしなかったくせに、形だけとらえてどれほど恐怖するふりをつづけるつもりだ。よほど、ことごとく夫婦の約束を破り続けてきたお前のほうがおそろしいのがわからんのか? なぜお前はそれほどまでに人の道を外れ続けながら、自分自身を恐れないんだ? 
 オレはいま、歯の治療がおわってインプラントも馴染み始めて、ようやく二十代半ばのころの踏み足の強さを取り戻しつつある。それでもお前が本当に怪我をする蹴りが繰り出せるほどの威力を得るまで、たぶんあと3ヶ月はかかりそうなほどの見通しだ。久美子、お前はどれだけ弱い者いじめをしたら気が済むんだ? 

 無視はDVだよ。間違いなくお前はDV加害者だよ久美子。殺意をこめて首を絞めるのもDVかつ殺人未遂だよ。いいかげん謝れ。
 よそのご家庭では、人道的なことでも旦那さんに謝れる嫁さん、ちゃんと実在しているぞ。
 お前もせめて、殺人未遂くらいは謝れるようになれよ。