ある冬のことでした……


帰宅すると軒下に何かが干してありました。

何かと思い近づいて見ると、汗だくの牛乳パック(未開封)でした。


……牛乳パックは干物にできるだろうか?

いや出来はしまい。

そもそも何故汗だく?


不思議に思い母にあれは何かと尋ねると、

“牛乳。”と一言。

うん、それは見ればわかる。

何故干してあるかを再度尋ねると、しれっと、

“ああ、解凍してるの”と、さも当たり前の事を聞くなと言うような調子で答えられました。


牛乳です。

紛れもなく牛乳です。


解凍と言う事は、冷凍してたと言う事…


この頃、母の中では冷凍ブームでした。

冷凍した他のものについての伝説はまた後日語りますが、
とりあえずこの頃の母は、
“冷凍すれば美味い”
“冷凍すれば腐らない”
…と信じきっていました。


牛乳も、買い溜めして冷凍しておけば経済的だと思ったのでしょう。

冷凍庫の扉を開けると、邪魔くさい程牛乳がででんとのさばっていました。



しばらくして気づくと冷凍庫から冷凍牛乳は消えていました。

母と姉の会話を聞いたところ、解凍がめんどくさい、牛乳パックがヘロヘロになる…等の理由からやめたそうです。



しかし母の冷凍伝説はまだ序章にすぎなかったのでした…

母は料理が苦手だ。
その言葉で片付けてはいけない部類かもしれない。





私が小学生の時分までは毎日割と普通の料理を作っていた母だが、
私が中学生になった頃から仕事の多忙さからあまり料理をしなくなっていった。

そのうち彼女は味見を忘れてしまったのか何なのか、
母の作る料理の味が徐々に塩辛く…というか濃くなっていき、
材料も怪しげになっていった…



そして現在。

彼女は買い物にもほとんど行かない。
主食はお菓子だ。

ほとんど料理もしない。
しても現在母と兄と私の三人暮らしだが、本人含め誰もほとんど食べない。

先日久しぶりに料理を作ったらしく、帰宅すると
“シチュー作った(からお食べ)”と言われた。


鍋の蓋を開けると、
少し半透明っぽいベージュ?灰色?の温かいものが入っていた。

ビーフシチューよりはクリームシチューの方が近い見た目だが、クリームシチューの匂いは一切しない。

具材もよくわからないドロドロさ加減が不気味だ。

本能は“キケン!食べるな!”と言っている。

好奇心は“何がどうしたらコレになるのか分析したい”と騒いでいる。


…恐る恐る、鍋から直接一さじすくって口に入れる。

でんぷん質のドロりとした食感、かすかな乳製品の香り…他不明。

とりあえず、シチューではない。

不思議の森に足を踏み入れてしまった私は、うさぎ(正体)を追う様にもう一さじ口にした。

…が、結局よくわからなかった。

ひとつだけ思い出した事は母が以前自信満々に放った言葉で、“シチューに牛乳はいらない。コーヒークリーム(粉タイプ)があれば代用できる!”という言葉。

おそらくはそれが入っているのだろう。


本能からの警鐘が強まったので3さじ以上はキケンと判断しその日は床についた。


朝、仕事に行く前に用を足そうとトイレに入ってからが大変だった。

火急のごときOPP…下痢に見舞われ、トイレから出た直後にトイレに入ると言う、あわや遅刻になるかと思う惨事だった。

時間ギリギリで何とか出すものを全て出してその日それ以降は事なきを得た。


おそらく、相当以前の料理の残り(冷凍庫から発掘されたと思われる)が入っていたのではないかと思う。


数日後、たっぷりあった母“シチュー”は減った気配なく消えていた。


進化しすぎた母の料理…2さじであの威力だ。

今まで母の料理で何と無くお腹の調子が悪くなる事が毎度あったが、これ程までの凄まじい破壊力は初めての遭遇だった。


もう母の料理は食べまいと堅く心に誓ったのであった。


今回の教訓…君子、母の料理に近寄らず
あれは夏真っ盛りの頃だった…



ある日、仕事を終え帰宅すると、姉夫婦と子供達が遊びに来ていた。

母の部屋にみんないるようで賑やかだったのでちび達の顔を見に行った。

そこには薄い大きな板と大量のティッシュ…と言うかちり紙の山。


…見上げると、大きな口を開け中身を覗かせた天井。

私も大きな口を開け、ポカーン(゚口゚)

子供達と姉が一生懸命説明してくれた話をまとめるとこういう事らしい……


我が家で唯一まともに稼動するエアコンが母の部屋にあるのでみんな母の部屋で涼んでいた。

…すると突然、“ミシミシッ”と音がして、次の瞬間、
“危ない!”
母の叫び声とともにティッシュがドドドっと降ってきた。

幸い天井裏の中身はティッシュ(ティッシュと言う呼び名が定着する前のちり紙も沢山)ばかりだったのでみんな怪我もなく、大事には至らなかった(十二分に大事だと思うのだが…)

…という訳だった。



確かにかねてから天井はたわんでおり、“大丈夫だろうか?”と心配をしていたのだが、そこは母の城(家)。何も言えなかった。

しかし驚くべきはティッシュの量と中身で、トイレットペーパーから箱ティッシュから、ボックスタイプやロールタイプになるまえのちり紙まであり、押し入れに入り切らない程大量であった。

もちろん新品なので、捨てるには忍びなく、入り切らなかったティッシュは私の部屋の片隅に保管される事になった。

母はオイルショックを経験しているからか、買い溜め癖と溜め込み癖があり、何事もちょっとやり過ぎるのが今回の原因と見られる。

他にも独創性豊かでもある母の伝説は数え切れず、
今回の出来事は序章に過ぎないのであった…



今回の教訓…ちり紙も積もれば天井をぶち抜く

今回の追加情報…あれから一年が過ぎようとしているが天井は未だに大きな口を開けている。