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『花怜のバッサリ体験録』の第3章ができあがりましたので、ここに投稿させていただきます。
花怜ちゃん、亜沙美ちゃん、夕夏ちゃんたち3人娘のやりとりを書いてるうちに、話がやたらめったら長くなるような気がして……。本当にこれ、まともに終わるんだろうかなんて思ったりもしますが、いや、ちゃんと終わらせなければいけません。『はじめての美容室』みたいに、無理して終わらせた感じにはしたくないですね。ちょっとは、進歩したところをお見せしないと……。
では、始めます。


ガラス張りのドアを押して、花怜たちが店の中に入ると、来客を知らせる軽やかなメロディーが流れた。
「いらっしゃいませ♪」
明るい声が花怜たちを出迎えた。どうやらさっきの仁美と悠生が最後だったらしく、他にお客の姿はない。
「あら、亜沙美ちゃん、いらっしゃい♪昨日はありがとうね❤」
カウンターにいた女性スタッフが、亜沙美に声をかけた。
「こちらこそ、昨日は良くしていただいてありがとうございました❤」
「で、どうだった?お祖父さまの反応」
「はじめは、もう面喰らって、『一体どうした⁉誰にやられた』なんて大騒ぎしちゃって」
さも可笑しくてたまらないといった様子で、クスクス笑いながら亜沙美が続けた。
「挙げ句の果てには『女の命たる黒髪を切るとは許せん‼成敗してくれる!』なんて、長押(なげし)に架けてある槍まで取ろうとして……もう何考えてんだか……」
「まぁ‼ 大変!」
カットスペースの床に散らばった髪の毛を塵取に取りながら、もうひとりの女性スタッフがプッと吹き出した。
「駄目よ、メイ。笑ったりしちゃ」
カウンターの女性が、床掃除をしていた女性をたしなめる。
「だ、だって」
「いやホントにもう、大赤面の、大々爆笑ものですよ……。今どき『成敗してくれる!』なんて……一体何時の時代だか、あ~おかしいっていうか、恥ずかしいの何のって……」
花怜も、夕夏も、まるで蚊帳の外といった態で、亜沙美と2人の女性スタッフとのやりとりを尻目に、店の中の様子を見回しながら、
「ねえ、夕夏。普通あそこまで言う?」
「言わないよねぇ。あれじゃ、あんまりだよね……」
普段、亜沙美だけでなく、花怜や夕夏をはじめ、遊びに来た友だちにまで、居ずまいから礼儀作法まで何かとうるさいおじいちゃんではあるが、ここまで扱き下ろされては、なんだか可哀想だ。
……あれ?
店の中を見回しているうちに、花怜は妙なことに気が付いた。
こじんまりした店の中にカットスペースの椅子が3つ、シャンプー台も同じく3つある。しかし、亜沙美が話してたような個室ではなく、そもそも壁らしき物に仕切られていない。
……確か個室って言ってなかったっけ……?
亜沙美の話だと、完全な個室ということだったが、これでは話がまるで違う……。もっとも、個室であろうとなかろうと、花怜にしてみれば、どうでもいいことなのだが。
シャンプー台の傍らには、キャスターのついたスタンドハンガーがあり、さまざまな色のシャンプークロスが吊るされている。DVDを見るためだろう、カットスペースの鏡の前には19サイズの液晶モニターが、それぞれ1台ずつ置いてある。
カットスペースの右端には小さなチェストがあり、その上にはダヤンとバニラのぬいぐるみが仲睦まじく座っていた。反対の左端には本棚が置かれ、雑誌や漫画本、CD、DVDのソフトが納められていた。その向こうでは、小さなテーブルセットが置かれ、窓に見立てた壁にはレースのカーテンがかかっている。
カットスペースとシャンプー台を除けば、そのまま女の子にとっては充分に広い、贅沢な私室と言っても通用しそうだ。
「……でも、例の寄付の話をしたら、途端に感激しちゃって、『あれほど伸ばしておった髪を切ってまで、世のため人のために尽くそうとは、見上げたものじゃ!さすがワシの孫だけのことはある!』だって……ホント単純なんだから……ッ!」
祖父の口真似をしながら、身ぶり手振りをまじえて話している亜沙美の脇腹を肘で小突きながら、
「ちょっと亜沙美、あんたいつまで喋ってんのよ。今日の主役はあんたじゃなく、花怜でしょうが……」
いいかげんしなさい、とばかり夕夏が言った。
「そうよ。いくらなんでもちょっと言い過ぎよ」
主役と言われて面喰らったのか、ちょっと的はずれなことを言う花怜に、
「ごめんなさいね。つい、お喋りに夢中になっちゃって……あなたが花怜ちゃんで、そちらが夕夏ちゃんね。亜沙美ちゃんから色々聞いてるわ♪」
カウンターの女性がにこやかに話しかけた。
……色々って……。
一体、昨日何を喋ったんだ?と、花怜も、夕夏も、亜沙美の方をジロリと見る。当の亜沙美は、ははは……と誤魔化し笑いを浮かべているが、こういう時の亜沙美が1番怪しいことは、2人とも飲んで食ったほどによく知り尽くしている。
「オーナーの中崎舞彩(まい)と申します。で、こちらが」
先程まで床掃除をしていた女性が、すぐ隣までやって来て、
「同じく相川芽愛(めい)です。このたびは、髪を寄付してくださるそうで、誠にありがとうございます」
さっきまで亜沙美とお喋りしていた時とは打って変わって、きちんと居ずまいを正した態度で軽く頭を下げた。この切り替えの早さこそが、プロのプロたる所以なのだろう。花怜も、夕夏も、一瞬気圧されて思わず背筋をピンと伸ばしたほどである。
「いえ、こちらこそ……」
言葉つきまで固くなる花怜たちに、
「ささ、固い挨拶はこれくらいにして、花怜ちゃんに、夕夏ちゃん、『Mayと舞』へようこそ♪」
リラックスして、とばかりに舞彩が微笑みながら名刺を渡した。同じように芽愛も、名刺を渡した。
普通のよりも、やや小さめ名刺にはそれぞれ、
“Beauty Room 『Mayと舞』
  オーナー 兼美容師   中崎舞彩”
“Beauty Room 『Mayと舞』
  オーナー兼美容師    相川芽愛”
と書いてあった。肩書が同じということは、共同経営ということなのだろう。舞彩の方が、芽愛よりも1つか2つ年上か、いずれにしても若い。夕夏の1番上の姉、娜津(ちなみに夕夏は5人姉妹の末っ子で、娜津とは8歳違い)ぐらいか、ちょっと上ってところか……。
「あの……舞彩さんと芽愛さんってことは、お店の名前……」
手渡された名刺を見ながら花怜が聞くと、
「そう♪私たちの名前から取ったの。さすがにそのまま本名だと恥ずかしいし、お客さまも読みにくいから」
「それで『Mayと舞』なんですね!なるほど……」
夕夏も、ポンッと手を打って納得の声をあげた。
「そういうこと♪」
舞彩と芽愛がにっこり笑って頷いた。
「──で、花怜ちゃんが、カットとシャンプー。夕夏ちゃんが、シャンプーだけね?」
舞彩が確認すると、花怜と夕夏がそれぞれ、「はい」と頷いた。
「あ、舞彩さん、ついでにあたしもシャンプーいいですか?」
と、亜沙美が横あいから口を挟んだ。
「ちょっと⁉ 亜沙美!あんた昨日来たばかりでしょうが」
思わず花怜が咎めると、
「いいじゃん。どうせヒマだしさ……」
しゃあしゃあと言う亜沙美に、
「言っとくけど、あたしが先だからね」
夕夏がきっぱりと言っておくことも忘れない。
「んなこと、わかってるわよ!ねぇ舞彩さん、いいでしょ?」
夕夏に向かって口を尖らせてから、舞彩の方に向き直って亜沙美が言った。
「大丈夫よ。今日はもう予約入ってないし、じゃ、亜沙美ちゃんもシャンプーだけと……」
舞彩がカウンターに置かれたリストに、亜沙美の名前も追加する。
「あ、そうそう……花怜ちゃんは、これにサインしてもらえるかしら?」
芽愛が1枚の紙切れを花怜に手渡した。
「何ですか?……同意書⁉」
冒頭の言葉に、怪訝そうな顔をする花怜に、
「そう♪だって、花怜ちゃん、髪の毛寄付してくれるんでしょ?思いきってバッサリらしいから」
……ば、バッサリって……。
一体、舞彩たちとどんな話をしたのか?気になった花怜が、亜沙美の方を見たが、当の亜沙美は亜沙美で、夕夏も交えて舞彩と何やら話し込んでいる。
そんな花怜の心の内を知ってか知らずか、芽愛が話を続ける。
「後で色々なトラブルを避ける意味もあるけど、NPO法人を通じて業者に送るから、ただカットした髪の毛を袋に詰めて、はいどうぞって訳にもいかないのよ」
「ああ……それで♪」
芽愛の言わんとすることが、おおよそ理解できた花怜が頷いた。
だが、さっきの“バッサリ”という言葉が、気持ちのどこかに、まるで苦手な魚の小骨のように引っ掛かっていた。
亜沙美の話だと、確か抗がん剤で髪の毛が抜けた患者のためのウイッグだから、当然のことなから医療用ということになる。そのためには、なるべく傷んでいない、つまりパーマやカラーリングをしていない髪の毛が望ましいとされている。
業者にもよるが、中にはシャンプーやコンディショナーもしていない髪の毛がウイッグ作りに良いとされているが、文明社会である今日においては、そういった代物を入手することは、ほとんど不可能と言っても過言ではないだろう。
それと、芽愛の言うトラブルというのは、おそらく髪を切った際に生じるであろう、「こんなに切るなんて聞いてない」とか「──言った覚えがない」などという揉め事を避けるためだろう。読んでみると、案の定、そういった内容のことが何ヶ条にわたって書いてあった。
同意書と一緒に手渡されたボールペンで、署名欄に“都築花怜”とサインし、「はい」と、芽愛に手渡した。
「確かにお預かりしますね。で、花怜ちゃん、昨日亜沙美ちゃんから聞いてたんだけど、ベリーショートでいいのかしら?」
「えっ⁉ ベ、ベリーショート?」
面喰らったように聞き返す花怜に、
「あら、違った?」
おかしいわねとばかりに、芽愛が逆に聞き返した。
……ちょ、ちょっと何⁉ ベリーショートだなんて、あたし、そんなの聞いてないっつーの……!
「あの……ちょっと、待ってもらえます?」
怪訝そうな顔をする芽愛に一旦断りを入れておいて、花怜は、夕夏と一緒になって舞彩とのお喋りに夢中になっている亜沙美の腕をぐいっと掴むと、
「ちょっと、こっち来なさいよ!」
ドアの近くまで引っ張って行った。
「亜沙美、あんた、昨日舞彩さんたちに何喋ったのよ?」
花怜の問いかけに、
「何って?」
逆に目を丸くして聞く亜沙美。
「誰が、いつ、ベリーショートにしたいなんて言ったわけ?」
それこそキスせんばかりに顔を近づけて、花怜が亜沙美を問い詰めた。
「ああ、あれね!ははは……」
誤魔化し笑いで、その場を取り繕うとする亜沙美に、
「ははは……っつーか、すっとぼけてんじゃねーよッ!」
口から火を吹かんばかりの勢いで怒鳴りつける花怜。
「何それ、ハリセンボンの春菜じゃあるまいし……それより花怜、お言葉が……」
「そんなことはどーだってよろしいッ!大体なんだって、あたしがベリーショートなのよ?」
髪の毛を寄付するのだから、ある程度短くすることは覚悟していたが、いくらなんでもベリーショートは想定外だ。
「そ、それは、言葉の綾ってやつで……」
「じょ、冗談……んな適当なことで、他人のヘアスタイルを勝手に決められてたまるもんですかッ!」
下手に手を出せば、ブチ切れ寸前の状態でまくし立てる花怜に、
「あの……さ、花怜……」
夕夏が恐る恐る声をかける。
「悪いけど、今取り込み中!後にしてくれる?」
「いや、そうじゃなくて……」
夕夏に続いて、
「あの……花怜ちゃん」
芽愛にも声をかけられて、花怜も漸くのことで我に返った。
……あ……ははは……。
気不味そうに振り返ると、夕夏をはじめ、芽愛、舞彩までもが、心配そうな面持ちで、自分たちの方を見ていた。当然のことながら、亜沙美とのやり取りが逐一、この3人の耳に筒抜けになっていたことは、いまさら言うまでもない。
「……花怜ちゃん、ベリーショートが嫌なら、普通のショートでもいいし、ちょっと長めのショートボブだってあるから……」
それにまだ切っちゃった訳じゃないから、と取りなすように言う芽愛と、
「花怜ちゃん、何なら今日は──」
と言いかけた舞彩に、
「そ、そんなんじゃないんですッ!」
両手を前に出して制するようにしながら、花怜が大慌てで、ブンブンと顔を横に振った。
「ベ、ベリーショートが嫌なんじゃなくて、この小娘が……」
「こ、小娘って‼ ──ふがっ⁉」
思わず抗議の声をあげようとした亜沙美の口をすばやく押さえながら夕夏が、
「あんたは黙ってなさい!」
「ふあっふえ(だって)」
「おっちょこちょいのお調子者って言われないだけマシでしょ!」
「ふおふおふあふえふううふあ⁉(そこまで言うか⁉)」
口を塞がれたまま、ブツブツ文句を言う亜沙美。
そんな2人の様子を尻目に、
「お騒がせしました……」
少々行き違いがあったみたいで……ちょこんと、軽く頭を下げてから、
「それで、ベリーショートってどんな感じなんですか?」
花怜が、舞彩と芽愛に聞いた。
「花怜ちゃん、あまり無理しなくていいのよ……」
「そ、そうよ。寄付ったって、花怜ちゃんの善意がこもってたら、長さなんて関係ないから……」
今度は逆に心配する舞彩と芽愛に、
「大丈夫。全然っ!平気ですから」
と、花怜が胸を張ってみせた。
他人にここまで(?)言わせておいて、このまま三十六計を決め込むなんて、そんな情けない真似ができる訳がない。
そういった面に関しては、亜沙美や夕夏よりも花怜の方が男気(?)というか自尊心が強かった。もっとも、そこが花怜のいいトコでもあり、反対に損な性分でもあったのだが……。
「とりあえず見せてください」
花怜にせがまれて、芽愛が小型のノートパソコンを暫くいじってから、「はい、どうぞ」と花怜の方へ向けた。
液晶画面を分割する形で、いくつかのヘアカットモデルの画像がそこにあった。
「へぇー、こんなにあるんですか……」
マウスで画面をスクロールしながら花怜が驚きの声をあげた。「どれどれ……」と、亜沙美と夕夏も身を乗り出すようにして画面を見る。
ベリーショートとひと口に言っても、おでこを出してるのもあれば、襟足やサイドをツーブロックにして刈上げしてるもの、夕夏のような耳出しもあれば、逆に耳を隠すようにしているもの等、結構な数がある。
「色々あって迷っちゃうでしょ?いいのよ。じっくり選んでくれて……」
舞彩がにこやかに言うと、
「……え、ええ……」
花怜が頷きながら、
……こんなにあるなんて、マジ驚きだわ……これは完璧耳出しだから、夕夏をまんま真似したみたいだし……。
できれば花怜としては、亜沙美や夕夏と似たり寄ったりの髪型だけは避けたかった。別に目立ちたいとか、他の2人と識別してほしいというのではなく、2人の真似をしたと思われるのが癪なだけだという単純な理由なのだが……。
「ねぇ、いっそのこと耳出しの、刈──ふがっ⁉」
横あいからアドバイス(?)しようとした亜沙美の口を押さえながら、
「黙ってなさいって言ってるでしょ!あんたがしゃしゃり出るとロクなことになんないんだから!」
こんなことならガムテでも持って来るんだったわ……などと夕夏がため息まじりに言うと、
「ふあいふあい(はいはい)」
口に蓋をされたまま、亜沙美がやや拗ねたように返事をした。
そんな2人を敢えて無視しながら、
「じゃあ、これでお願いします」
花怜が画像のひとつを示した。
「ああ、これね♪」
舞彩がにっこり頷くと、
「確か耳出しだけど、ちょっとふんわりした感じだから、花怜ちゃんによく似合うと思うわ♪」
芽愛も、画像を確認しながら頷いた。
「それじゃ、シャンプーの前に粗切りしますから、花怜ちゃん、真ん中の椅子へどうぞ」
舞彩に促されて、花怜はカットスペースの真ん中の椅子に腰を下ろすと、グリーンとブルーのストライプのリボンを取り、ブラウスのボタンを2番目まで外した。もちろん、タオルをかけ易くするための配慮からだ。
……いよいよ、あたし、ばっさりデビューするんだ……。
かつて経験したことのない緊張感に、花怜は胸がドキドキ、そしてわくわくするのを禁じ得なかった。


                                                      (つづく)


いかがでしたか?やっと最後のところで、花怜ちゃんをカットスペースの椅子に座らせることができました。いよいよバッサリいきたいけど、大丈夫かな?また亜沙美ちゃんが混ぜ返すかもしれないし、夕夏ちゃんも、それに相乗りしそうだしなぁ……。


※おまけの画像。ゆるふわベリーショートです❤花怜ちゃんも、こんな髪型になるのかな?

こちらは、刈上げショートボブ❤亜沙美ちゃんですね♪

耳出しベリーショートは、夕夏ちゃん❤
いよいよショートヘア仲良し3人娘の誕生なるか?


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