私のブログをご覧になってくださっているみなさん、いつもアクセスしていただき、誠にありがとうございます。
「はじめての美容室」の続き、ようやく出来上がりましたので、投稿させていただきます。セリフ回し等、思い出話に尾ヒレが付きすぎたきらいがありますが、気にせず読んでいただけましたら幸いです。
では、始めます。
「辛島美紗です。よろしくね、悠くん」
「あたし、山下望美。次来た時はあたしにシャンプーさせてね」
2人のスタッフが、それぞれ悠生に挨拶がてら自己紹介する。それに対し、
「飯原悠生です。こちらこそ、よろしくお願いします」
と、真面目に挨拶しながら軽く頭まで下げる悠生に、
「あのね、お見合いの席じゃないんだから、いちいち頭なんか下げなくていいの」
仁美があきれたように肩をすくめて見せる。それでいて、
『ま、そこが悠くんのいいとこでもあるんだけど……』
と、悠生には聞こえないようにそっと呟いた。
そんな様子を見ながら美紗が、
「仁美ちゃん、今日はまるで悠くんのお姉さんみたいね」
と言うと、
「今日だけじゃなく、よく言われるんです。ね、悠くん」
仁美が悪戯っぽく悠生の方を見る。
「余計なこと言うなよ」
当たってるだけに、悠生は顔から火が出るような思いだ。
事実、悠生は幼い頃から仁美に振り回されっぱなしで、よく面倒を見てもらっていた。それは別段、悠生がいじめられっ子だったわけでも、人一倍頼りないわけでも決してない。むしろその逆で、スポーツだって得意という訳ではないが、何事もそつなくこなせるし、勉強だって数学と物理以外なら、どの教科もトップクラスで、友だちから一目もニ目も置かれ頼りにされている。ただ、優し過ぎるというか、性格がおとなしすぎて、やや引っ込み思案なところが災いし、仁美をはじめクラスの女子や叔母の加菜恵たちからしてみれば、どこか放っとけない、面倒を見てあげなくてはならない存在に映ってしまうのだ。そのため、悠生自身が好む好まざるに拘わらず、みんな(女子たちに限ってだが)から、何かと世話を焼いてもらう羽目になってしまうのだ。
そんな羨ましい役得(悠生自身はそんなことを微塵にも思ってないのだが)をうらやんでか、武彦をはじめ親友たちから“悠生ちゃーん”とか“ユキちゃーん”なんて揶揄された愛称(?)で呼ばれたりするのである。
冴子をはじめ、2人のスタッフの目にも、悠生と仁美がどんなふうに映っているのか、どんなふうに思っているのかは、おおよその見当がつく。
「じゃ、悠くん、この椅子に座ってね」
美紗に促されて、悠生はシャンプー台の椅子に腰を下ろした。その隣では、仁美が望美に促されて椅子に座っている。
「悠くん、美容室デビューってことは、バックシャンプーもはじめてよね?」
薄いピンクのタオルを悠生の首にかけながら美紗が聞いた。
「はい」
と頷く悠生に、
「じゃ、ケープかけるね」
美紗が、シルバーのシャンプーケープを悠生の首に巻きつけた。普通のケープと違って、シャンプーのケープは厚みがあって、後ろから着せられて、マジックテープを前で留めるようになっていた。
「こんなのつけるの、はじめて?」
「はい……はじめてです」
美紗の指先が顎の下に触れるのを感じ、ドキドキしながら悠生が頷いた。
実際、シャンプーケープを着せられたのは、悠生自身、生まれてはじめてだった。
記憶をたどれば、小学校の時はタオルをかけただけの前屈みシャンプーだったし、中学の時は丸刈りだから、シャンプーはしないで、そのまま家に帰ってからシャワーで洗い流していた。
「悠くん、ケープきつくない?」
美紗に聞かれて、
「だ、大丈夫です」
悠生は頬のあたりが少し赤くなるのを感じながら頷いた。
「そう。きつかったら言ってね」
「は、はい……」
ふと隣のシャンプー台をチラ見すると、悠生と同じようにシルバーのシャンプーケープを着せられた仁美がニヤニヤしながら、
「悠く~ん、照れちゃってかわいい~♪」
と冷やかした。
「うるさい!」
言い返しながらも、頬がますます熱くなるのを感じる悠生。そんな様子を優しく見守りながら美紗が、
「はーい。倒しますね」
と、シャンプー台の椅子をゆっくりと倒していった。倒しながらケープの後ろに付いているドロッパーでシャンプー台の端を覆うようにして、台の窪んでいる所に悠生の首を載せた。
「首のところ大丈夫?痛くない?」
美紗に聞かれて、悠生は首の後ろに軟らかいクッションのような感触を感じながら、
「大丈夫です」
と答えた。
「じゃ、顔にタオル載せるね。息苦しかったら、遠慮せず言ってね」
折り畳まれた薄いピンクのタオルが顔に載せられた。小さく折り畳まれてるわけではないから、ちっとも息苦しさは感じない。
「少し濡らしてからシャンプーするね。お湯が熱かったら、遠慮せず言ってね」
「はい」
タオルのせいで、少しくぐもってはいたが、美紗にはちゃんと伝わったようだ。
シャワーのコックを捻る音と同時に、悠生は髪が濡らされていくのを感じた。お湯の温度は熱くもなく、温すぎでもない、ちょうどいい湯加減だった。
ある程度髪を濡らすと、美紗がシャワーを止めた。
適当な量のシャンプーを掌に取ると、それを少し泡立ててから、悠生の髪の毛を包み込んでいった。5ヶ月間伸ばしっ放しだった髪にシャンプーの泡が少しずつ馴染んでいく。やがて、美紗の両手の指がゆっくりと動き始めた。
ふわっとした何かに、自分の髪が包まれていくような感覚をおぼえながら、悠生はオレンジにも似た少し甘酸っぱい香りを鼻腔の奥に感じていた。
……いい匂いだなぁ……。
タオルの下で目を閉じると、やがて自分の髪の毛の中で何かが動いているのを感じた。言うまでもなく、美紗の指が自分の頭皮をマッサージするようにして、5ヶ月間放ったらかしにしていた髪を洗ってくれているのだ。
……あぁ、すっごく気持ちいい……。
あまりの気持ち良さに、身も心も蕩けそうなほどにうっとりしている悠生の耳もとに、
「悠くん、かゆいところありますか?」
美紗の声が響いてきた。
ハッと我に帰りながら悠生は、
「あ……ありません」
と答えた。
悠生自身、髪を洗う際、結構あちこちがかゆく感じたりするのだが、美紗にシャンプーされていると、不思議とそんな感じがまったくなかった。
さすがプロなんだな……。
妙なところに感心しつつも、
このままずっとこうされていたい……。
と思っていた。
「はーい。流しますね」
再びシャワーのコックが捻られ、髪の毛を包み込んでいるシャンプーの泡が洗い流されていく。
もちろん、普段髪はきちんと洗っているのだが、何か別のものも洗い流されていくような気がした。それは、5ヶ月の間伸ばしっ放しにしていた髪の毛に絡み付いていた、何かしがらみのようなものなのか、悠生にもわからなかった。
シャンプーの泡を流してしまうと、美紗は一旦シャワーを止めて、適当な量のコンディショナーを掌に取り、まるで塗り広げるようにしながら悠生の髪にゆっくりと馴染ませていく。
顔に載せられたタオル越しに、再びオレンジの匂いを鼻腔に感じながら悠生は、シャンプーの時とは違う美紗の指使いにうっとりしていた。
ぼさぼさだった髪の毛に、コンディショナーの成分が染み込んでいく。なんだか髪の毛そのものが甦っていくような感じがする。
……美容師さんに髪を触ってもらうのが、こんなに気持ちいいなんて……。
どこか別世界に意識が飛んでいきそうになる悠生の耳もとに、
「はーい。流しますね」
美紗の声がして、再びシャワーが悠生の髪を洗い流していく。シャンプーの時と違って、今度はそんなに長くない。
シャワーの音が止まると同時に、顔に載せられていたタオルが除けられ、それで濡れた髪が拭われ、まるでターバンをしてるように包み込まれると、
「はーい。起こしますね」
シャンプー台の椅子が起こされた。
「お疲れさまでした」
美紗の手が、悠生に着せられていたケープのマジックテープを剥がし、服を濡らさないように優しく取り去っていく。
「悠くん、お疲れさま。じゃ、カットしますから、向こうの真ん中の椅子に座ってね」
冴子がにこやかに微笑みながら、悠生をカットスペースへと導いていった。どうやらここで、美紗はお役御免らしい。
首にタオルをかけただけの姿で、カットスペースの椅子に座る悠生。その右隣には、これまたシャンプーを終えたばかりの仁美が座り、望美にブローしてもらっていた。
カットスペースの鏡の中に、首に薄いピンクのタオルがかけられ、同じ色のタオルで頭を包んだ自分が映っている。
冴子が薄いオレンジ色のカットクロスを手に、悠生の後ろに立った。冴子がそれを悠生の前に広げると、
「悠くん、これドレスになっているから、袖に手を通してね」
「あ、はい」
悠生の目の前に広げられたクロスは、床屋で着せられていたクロスと違って、前に袖のようなものが付いてて、そこに手を通すようになっていた。
……これって、ドレスって言うのか……。
目の前に広げられた、オレンジ色のカットクロスの袖に手を通すと、冴子がそれを手前へと引き寄せ、マジックテープを悠生の首の後ろのところで留めた。
「苦しくない?」
「はい。大丈夫です」
冴子がにっこりして頷くと、傍らのワゴンから何かを取り出した。それは、薄い緑色をしたゴムか何かで出来てるように見えた。
「悠くん、カットした髪の毛でチクチクしないように、これをしましょうね」
と、冴子がその緑色の物を、悠生の首に巻きつけ、マジックテープを首の後ろのところで留めた。ゴムにも似た、軟らかい肌触りが、悠生の首のところにぴったりと密着する。
「悠くん、これするのってはじめて?」
「はい」
冴子に聞かれて、悠生が頷いた。
「これ、襟エプロンっていうの。カットした髪の毛が、クロスの襟から入らないようにするための物なの」
冴子にそう言われて、悠生は鏡に映る自分の姿を見た。
薄いオレンジ色のカットドレスを着せられ、薄い緑色の襟エプロンをした自分は、まるで涎かけをしてるようにも見えて、少し恥ずかしいような気がした。
(つづく)
いかがでしたか?試行錯誤を重ねて書いていくうちに、セリフ回し等、多少どころかかなり脚色したようになってしまい、申し訳ありません。ですが、終始女の子のペースに振り回されっ放しのあたりといい、大人の女性を前にドキドキしてるあたりなんか、あの日の私自身を忠実に再現しているつもりです。
今後とも、よろしくお願いいたします。

※おまけの画像。ちょうど、こんなシルバーのケープを着せられて、

美容師さんの手で、優しくシャンプーしてもらいましたね。あの日の出来事があったからこそ、今の至福の数々が存在すると言っても過言ではありません。仁美のモデルでもある、当時の彼女に感謝です!
「はじめての美容室」の続き、ようやく出来上がりましたので、投稿させていただきます。セリフ回し等、思い出話に尾ヒレが付きすぎたきらいがありますが、気にせず読んでいただけましたら幸いです。
では、始めます。
「辛島美紗です。よろしくね、悠くん」
「あたし、山下望美。次来た時はあたしにシャンプーさせてね」
2人のスタッフが、それぞれ悠生に挨拶がてら自己紹介する。それに対し、
「飯原悠生です。こちらこそ、よろしくお願いします」
と、真面目に挨拶しながら軽く頭まで下げる悠生に、
「あのね、お見合いの席じゃないんだから、いちいち頭なんか下げなくていいの」
仁美があきれたように肩をすくめて見せる。それでいて、
『ま、そこが悠くんのいいとこでもあるんだけど……』
と、悠生には聞こえないようにそっと呟いた。
そんな様子を見ながら美紗が、
「仁美ちゃん、今日はまるで悠くんのお姉さんみたいね」
と言うと、
「今日だけじゃなく、よく言われるんです。ね、悠くん」
仁美が悪戯っぽく悠生の方を見る。
「余計なこと言うなよ」
当たってるだけに、悠生は顔から火が出るような思いだ。
事実、悠生は幼い頃から仁美に振り回されっぱなしで、よく面倒を見てもらっていた。それは別段、悠生がいじめられっ子だったわけでも、人一倍頼りないわけでも決してない。むしろその逆で、スポーツだって得意という訳ではないが、何事もそつなくこなせるし、勉強だって数学と物理以外なら、どの教科もトップクラスで、友だちから一目もニ目も置かれ頼りにされている。ただ、優し過ぎるというか、性格がおとなしすぎて、やや引っ込み思案なところが災いし、仁美をはじめクラスの女子や叔母の加菜恵たちからしてみれば、どこか放っとけない、面倒を見てあげなくてはならない存在に映ってしまうのだ。そのため、悠生自身が好む好まざるに拘わらず、みんな(女子たちに限ってだが)から、何かと世話を焼いてもらう羽目になってしまうのだ。
そんな羨ましい役得(悠生自身はそんなことを微塵にも思ってないのだが)をうらやんでか、武彦をはじめ親友たちから“悠生ちゃーん”とか“ユキちゃーん”なんて揶揄された愛称(?)で呼ばれたりするのである。
冴子をはじめ、2人のスタッフの目にも、悠生と仁美がどんなふうに映っているのか、どんなふうに思っているのかは、おおよその見当がつく。
「じゃ、悠くん、この椅子に座ってね」
美紗に促されて、悠生はシャンプー台の椅子に腰を下ろした。その隣では、仁美が望美に促されて椅子に座っている。
「悠くん、美容室デビューってことは、バックシャンプーもはじめてよね?」
薄いピンクのタオルを悠生の首にかけながら美紗が聞いた。
「はい」
と頷く悠生に、
「じゃ、ケープかけるね」
美紗が、シルバーのシャンプーケープを悠生の首に巻きつけた。普通のケープと違って、シャンプーのケープは厚みがあって、後ろから着せられて、マジックテープを前で留めるようになっていた。
「こんなのつけるの、はじめて?」
「はい……はじめてです」
美紗の指先が顎の下に触れるのを感じ、ドキドキしながら悠生が頷いた。
実際、シャンプーケープを着せられたのは、悠生自身、生まれてはじめてだった。
記憶をたどれば、小学校の時はタオルをかけただけの前屈みシャンプーだったし、中学の時は丸刈りだから、シャンプーはしないで、そのまま家に帰ってからシャワーで洗い流していた。
「悠くん、ケープきつくない?」
美紗に聞かれて、
「だ、大丈夫です」
悠生は頬のあたりが少し赤くなるのを感じながら頷いた。
「そう。きつかったら言ってね」
「は、はい……」
ふと隣のシャンプー台をチラ見すると、悠生と同じようにシルバーのシャンプーケープを着せられた仁美がニヤニヤしながら、
「悠く~ん、照れちゃってかわいい~♪」
と冷やかした。
「うるさい!」
言い返しながらも、頬がますます熱くなるのを感じる悠生。そんな様子を優しく見守りながら美紗が、
「はーい。倒しますね」
と、シャンプー台の椅子をゆっくりと倒していった。倒しながらケープの後ろに付いているドロッパーでシャンプー台の端を覆うようにして、台の窪んでいる所に悠生の首を載せた。
「首のところ大丈夫?痛くない?」
美紗に聞かれて、悠生は首の後ろに軟らかいクッションのような感触を感じながら、
「大丈夫です」
と答えた。
「じゃ、顔にタオル載せるね。息苦しかったら、遠慮せず言ってね」
折り畳まれた薄いピンクのタオルが顔に載せられた。小さく折り畳まれてるわけではないから、ちっとも息苦しさは感じない。
「少し濡らしてからシャンプーするね。お湯が熱かったら、遠慮せず言ってね」
「はい」
タオルのせいで、少しくぐもってはいたが、美紗にはちゃんと伝わったようだ。
シャワーのコックを捻る音と同時に、悠生は髪が濡らされていくのを感じた。お湯の温度は熱くもなく、温すぎでもない、ちょうどいい湯加減だった。
ある程度髪を濡らすと、美紗がシャワーを止めた。
適当な量のシャンプーを掌に取ると、それを少し泡立ててから、悠生の髪の毛を包み込んでいった。5ヶ月間伸ばしっ放しだった髪にシャンプーの泡が少しずつ馴染んでいく。やがて、美紗の両手の指がゆっくりと動き始めた。
ふわっとした何かに、自分の髪が包まれていくような感覚をおぼえながら、悠生はオレンジにも似た少し甘酸っぱい香りを鼻腔の奥に感じていた。
……いい匂いだなぁ……。
タオルの下で目を閉じると、やがて自分の髪の毛の中で何かが動いているのを感じた。言うまでもなく、美紗の指が自分の頭皮をマッサージするようにして、5ヶ月間放ったらかしにしていた髪を洗ってくれているのだ。
……あぁ、すっごく気持ちいい……。
あまりの気持ち良さに、身も心も蕩けそうなほどにうっとりしている悠生の耳もとに、
「悠くん、かゆいところありますか?」
美紗の声が響いてきた。
ハッと我に帰りながら悠生は、
「あ……ありません」
と答えた。
悠生自身、髪を洗う際、結構あちこちがかゆく感じたりするのだが、美紗にシャンプーされていると、不思議とそんな感じがまったくなかった。
さすがプロなんだな……。
妙なところに感心しつつも、
このままずっとこうされていたい……。
と思っていた。
「はーい。流しますね」
再びシャワーのコックが捻られ、髪の毛を包み込んでいるシャンプーの泡が洗い流されていく。
もちろん、普段髪はきちんと洗っているのだが、何か別のものも洗い流されていくような気がした。それは、5ヶ月の間伸ばしっ放しにしていた髪の毛に絡み付いていた、何かしがらみのようなものなのか、悠生にもわからなかった。
シャンプーの泡を流してしまうと、美紗は一旦シャワーを止めて、適当な量のコンディショナーを掌に取り、まるで塗り広げるようにしながら悠生の髪にゆっくりと馴染ませていく。
顔に載せられたタオル越しに、再びオレンジの匂いを鼻腔に感じながら悠生は、シャンプーの時とは違う美紗の指使いにうっとりしていた。
ぼさぼさだった髪の毛に、コンディショナーの成分が染み込んでいく。なんだか髪の毛そのものが甦っていくような感じがする。
……美容師さんに髪を触ってもらうのが、こんなに気持ちいいなんて……。
どこか別世界に意識が飛んでいきそうになる悠生の耳もとに、
「はーい。流しますね」
美紗の声がして、再びシャワーが悠生の髪を洗い流していく。シャンプーの時と違って、今度はそんなに長くない。
シャワーの音が止まると同時に、顔に載せられていたタオルが除けられ、それで濡れた髪が拭われ、まるでターバンをしてるように包み込まれると、
「はーい。起こしますね」
シャンプー台の椅子が起こされた。
「お疲れさまでした」
美紗の手が、悠生に着せられていたケープのマジックテープを剥がし、服を濡らさないように優しく取り去っていく。
「悠くん、お疲れさま。じゃ、カットしますから、向こうの真ん中の椅子に座ってね」
冴子がにこやかに微笑みながら、悠生をカットスペースへと導いていった。どうやらここで、美紗はお役御免らしい。
首にタオルをかけただけの姿で、カットスペースの椅子に座る悠生。その右隣には、これまたシャンプーを終えたばかりの仁美が座り、望美にブローしてもらっていた。
カットスペースの鏡の中に、首に薄いピンクのタオルがかけられ、同じ色のタオルで頭を包んだ自分が映っている。
冴子が薄いオレンジ色のカットクロスを手に、悠生の後ろに立った。冴子がそれを悠生の前に広げると、
「悠くん、これドレスになっているから、袖に手を通してね」
「あ、はい」
悠生の目の前に広げられたクロスは、床屋で着せられていたクロスと違って、前に袖のようなものが付いてて、そこに手を通すようになっていた。
……これって、ドレスって言うのか……。
目の前に広げられた、オレンジ色のカットクロスの袖に手を通すと、冴子がそれを手前へと引き寄せ、マジックテープを悠生の首の後ろのところで留めた。
「苦しくない?」
「はい。大丈夫です」
冴子がにっこりして頷くと、傍らのワゴンから何かを取り出した。それは、薄い緑色をしたゴムか何かで出来てるように見えた。
「悠くん、カットした髪の毛でチクチクしないように、これをしましょうね」
と、冴子がその緑色の物を、悠生の首に巻きつけ、マジックテープを首の後ろのところで留めた。ゴムにも似た、軟らかい肌触りが、悠生の首のところにぴったりと密着する。
「悠くん、これするのってはじめて?」
「はい」
冴子に聞かれて、悠生が頷いた。
「これ、襟エプロンっていうの。カットした髪の毛が、クロスの襟から入らないようにするための物なの」
冴子にそう言われて、悠生は鏡に映る自分の姿を見た。
薄いオレンジ色のカットドレスを着せられ、薄い緑色の襟エプロンをした自分は、まるで涎かけをしてるようにも見えて、少し恥ずかしいような気がした。
(つづく)
いかがでしたか?試行錯誤を重ねて書いていくうちに、セリフ回し等、多少どころかかなり脚色したようになってしまい、申し訳ありません。ですが、終始女の子のペースに振り回されっ放しのあたりといい、大人の女性を前にドキドキしてるあたりなんか、あの日の私自身を忠実に再現しているつもりです。
今後とも、よろしくお願いいたします。

※おまけの画像。ちょうど、こんなシルバーのケープを着せられて、

美容師さんの手で、優しくシャンプーしてもらいましたね。あの日の出来事があったからこそ、今の至福の数々が存在すると言っても過言ではありません。仁美のモデルでもある、当時の彼女に感謝です!