先日、お話させていただきました、私自身の思い出を小説風にアレンジして書いてみました。
なにぶん、まったくはじめての試みですので、稚拙な文章表現等が多々見受けられると思いますが、ご容赦いただければ幸いであります。
では、始めさせていただきます。


「……仁美、おれ、やっぱりいいよ……」
通いなれた駅前通りを、幼馴染みで彼女でもある仁美から少し遅れて歩きながら、悠生がつぶやくように言うと、
「ちょっと‼ここまで来て、今さら何言ってんのよ!」
クルリと振り返った仁美が、両手を腰にした“いいかげんしないと怒るわよ”のポーズで、ぴしゃりと言った。
「……いや……そのさ……」
仁美の有無を言わさずなオーラに気圧されて、思わず口ごもる悠生に、
「もうっ‼はっきりしなさいよ!悠くん、あなた男の子でしょ‼」
仁美の声がますます大きくなる。
幼馴染のせいか、名前は半分で、しかも“くん”付け、あまつさえ“男の子”なんて言われて、恥ずかしさに顔を赤くしてうつむき加減の悠生に、
「いいこと、そうやって逃げてばっかりしてたから、そんなボサボサになっちゃったんでしょ‼」
「……そ、それは……」
「とにかく、中学ん時までの坊主だった反動だか何だか知らないけど、ただ闇雲に伸ばしゃいいってもんじゃないでしょ‼」
仁美が、こつこつ諄々と続ける。一発の雷もさることながら、このお説教ようなものは、悠生にとって余計に堪えるのだ。

そもそもの事の起こりは、仁美が悠生の家を訪ねて来たことに始まる。
仁美が悠生に借りた本を返しに玄関のドアを開けた時、悠生が母親の幸恵と何やら言い争っている最中だった。
聞けば、中学卒業前の2月以降、髪をずっと伸ばしっぱなしにしている息子を見るに見かねた幸恵が、
『いいかげん床屋さんに行きなさい!』
と言ったことから、2人の言い争いが始まったという。
悠生(というか仁美も)が通っていた中学では、男子は皆3年間丸刈りという校則だったため、もちろん悠生も3年間丸刈り生活を強いられたのである。
思春期を迎え、外見を気にする年齢にとって、これは苦痛以外の何物でもなかった。その反動というわけではないものの、中学卒業&高校入学によって、晴れて髪型を自由にできることへの喜びに加え、髪型をいじるにはある程度伸ばさないといけないという思いから、ずるずると今日にまで至ってしまったのである。この間およそ5ヶ月、高校入学の頃はまだそれほどでもないが、5月を過ぎ、6月、7月にもなると、まさしく蓬髪と言ってもおかしくないほどのボサボサになってしまったのである。
仁美にしてみれば、悠生(だけでなく他の男子たちも同じようなものだが)の事情もよくわかる。だが、5ヶ月は行き過ぎだ。一緒にどこか行くにしても、それなりの格好をしてもらわないと、こっちだって恥ずかしい。
幸恵に加え、仁美との連合軍に攻められながらも、尚も逡巡する悠生に、
『そんなに床屋さんが嫌なら、あたしが行ってる美容室に連れてってあげる』
と仁美が言ったことから、今の状況に至ったのである。

まるで亀が首を竦めるようにして、嵐が通り過ぎるのを待っている悠生に、
「ちょっと‼聞いてるの!」
仁美の声が飛ぶ。
「き、聞いてるよ……っていうか、仁美……みんな見てるって……」
2人がいるのは駅前通りであって、無人の野ではない。当然、人の往来もある。もちろん、悠生と仁美のやりとりを目にする者もいる。が、所詮他人である。どこにでもいる高校生のカップル同士のつまらない言い争いに過ぎない。そんな感じで、チラッと一瞥はするものの、皆さっさと通り過ぎてしまう。
仁美はといえば、そんなことなどお構い無しに、
「見てるからどうなのよ!そもそもの原因は悠くんでしょ‼」
「いや……確かに」
「わかってるなら、行くわよ!」
悠生の手を繋ぐと、そのまま引っ張って歩き始めた。
「ちょっと……仁美、恥ずかしいよ……」
「何言ってんのよ‼こうでもしなきゃ、悠くん逃げるでしょ!もし逃げたりしたら、おばさんに言いつけるからね‼」
「なんで母さんがそこで出てくるんだよ」
そんなやりとりをしながら2人は、『Hair Friend's』と書かれたプレートが下がっている美容室のドアの前に立った。
「じゃ、入るわよ」
仁美がドアのノブに手をかけて、ゆっくりと内側へと押した。
……いよいよなんだ……。
ドキドキと、自分の心臓が早鐘のように鳴るのを感じながら悠生は、仁美に手を引かれて店の中へと足を踏み入れた。
             
                                                      (つづく)

いかがでしたか、小説風ですので、多少の脚色はさせていただきましたが、できる限り、あの日の出来事を忠実に再現できたらと思っております。



おまけの画像。私自身、持ってませんが、S.H.Aというレーベルからリリースされている『Beauty Room』という作品です。

水色のシャンプークロスを着せられ、美容師さんにシャンプーされている女性。

遊び心で宇宙人にされています。でも、よく見ると、美容師さんの頭が泡泡。服が違うみたいだから、別の美容師さんと交代したの?謎です……。