兄から不在着信があったのは真夜中だった。
実家で何かあったのかな?一瞬そう思ったけど、兄は病気をしてからたまに変わった行動をするので、放っておこうと思ったらまた着信が。
出てみると、案の定、あまり意味のない内容だった。ヘッドホンが欲しいのだが、自分が若い頃に売っていたドイツ製のが良いと言う。しかし今は製造されていないと。
秋葉原でも行かないと無理じゃないかな?通販で探したほうが早くない?私はそう答えた。
パパが電気屋さんだから、頼めないかと言う。私は、真夜中だから困るから、自分の子供たちに頼んで欲しいと電話を切った。
次の朝にも電話がきた。パパと話せば気が済むのかな?と、パパに電話をするように促した。
仕事から帰ったパパが、兄から言われてヘッドホンの事を気にしていたけど、なにもしなくていいよと話した。春休みに実家へ行った時、兄から「(パパから)なにか頼まれてないか?」と言われたので、甥っ子たちにヘッドホンの件を話して、適当なの買ってあげてと頼んだ
春休みが終わり、子供たちも私も新しい生活が始まり、忙しく過ごしていた4/13の夜8時頃、姉から電話が来た
「驚かないで聞いてくれ」
私は父になにかあったのかと思った。ずっと体調を悪くしていたから。
「お兄ちゃんが亡くなった」
衝撃だった。つい2週間ほど前に会ったばかりで、それなりに元気だった。
涙が溢れたけど、まだ実感がなかった。田舎は亡くなるとすぐお通夜になるけど、日にちが合わず平日に通夜と葬儀になると言われた。
土日から実家へ行くことにした。でもなかなか準備が進まなかった。実家へ向かう車の運転も辛くて、実家に近くなる程涙がこみ上げてきた。
兄は眠っているようだった。とても安らかな表情で横たわっていた。ふとした瞬間、寝息で布団が上下してるようにも見えた。
ずっと気にかかっていたヘッドホン。甥っ子に聞くと、買わず仕舞いだったらしい。
買ってあげればよかった。後悔してももう遅い。
二晩、兄の側で寝た。兄が葬儀場へ行ったお通夜のあと、以前の兄からの着信履歴が消えないように、他の着信履歴を布団の中で削除していった。
兄からの真夜中の着信がいつだったのか、急に気になったのだ。
兄から電話があったのは、亡くなるちょうど一ヶ月前、3/13だった。
涙が噴き出した。兄は薄々、自分の死期を感じ取っていたのか。兄はパパが好きだった。でも休みが合わなくて、一緒に実家へ顔を出したのは、随分前だった。きっと最期に話したかったんだと思った。
義姉に聞いたら、その頃いろんな人に電話をかけているのが、携帯の履歴に残っていたらしい。
まるで挨拶回りをするように、電話をしていた。
ヘッドホンを買ってあげなかったこと、異変に気付けなかったこと、悔やんでも悔やみきれない
通夜と葬儀は、晴れているかと思えば雨が降り出したり、雷雨になったりと、とても変わりやすい天気だった。涙雨だったのか。
たくさんの人に見送られ、兄は幸せだったと思います。兄の足元には、大好きだったCDを入れてあげたそうです。
子供のころは、兄が集めたレコードを聴いて育ちました。ビートルズの青盤を一番聴いていたと思います。ABBAやカーペンターズ、ポールモーリア。昔は大切にレコードを扱って、大きなステレオで音楽を聴いていました。音楽を家で聴くことが、特別な事だった気がします。そのレコードたちはもう残っていないけど、大切な思い出です。