
真夜中の映画館、大スクリーンを前に観客は私、独りきり。
そんな状況のもと「ヒミズ」は上映された。
そしてそれは間違いなく今後の人生に影響を及ぼすであろう衝撃作となった。
ガイガーカウンターの音が震災後の荒野に響き、この映画の世界観を象徴しているかのようだ。
ここの「おいしいパン屋のブログ」には、その内容があまりにも残酷で暴力的で悲しいので割愛するが、
大まかに言えば、受験を控えた中3の男女2人と、彼らをとりまく大人たちの狂った日常を描いている。
男の子の夢は「普通の大人になること」だ。
そしてたいていの場合、「普通になりたい」と願う人ほど、「普通」からかけ離れたところに存在する。
彼ら2人とも、異常なまでに辛らつな家庭環境に身をおきながらも何とか精神を保っている、
狂気と正常の境界線にぎりぎりで留まっている、かわいそうな子供たちだ。
この映画には、決定的に「愛情」というものが存在しない。
登場する多くの大人たちは心を病んでいて、そのせいで命を奪われる人も少なくはない。
そんな狂気の日常に唯一、女の子の、男の子に対する好意と情熱だけが、純粋な輝きを放つ。
彼女だけが、その不幸な境遇をものともせずに、常識的に彼を導こうとするのだ。
そして映画のクライマックスで、彼女は彼に初めて自分の夢を熱心に語る。
その「夢」とは、普通の人間ならば誰もが手に入れられるであろう、当たり前で、ささやかな事だ。
しかし彼はそれを聞いて、「すごいね。本当に夢みたいだ」と、涙を流すのだ。
きっとこの映画は、「境界線」に生きている人々に一番響くはずだ。
彼女の言葉は、あなたの心にも届くだろうか。
A・M