こんにちは
金平糖の精に引き続き、名作解説集vol.3“くるみ割り人形”より、王子のヴァリエーションについてお話したいと思います
皆さんは王子の名前をご存知ですか?
公演プログラムにも“王子”とシンプルな記載になっていることも多いですよね。
そんな中でもよく聞くのは“コクリューシ王子”という名前でしょうか🤴
これまでのvol.1,2のblogでも“くるみ割り人形” には沢山のバージョンがあり、物語でさえアレンジされているとお話しましたが、王子の設定や名前にも違いが現れているものもあります
とは言え、同じプティパの作品でも『眠れる森の美女』や『白鳥の湖』ではバージョンの違う演出でも役名が変わることはあまり聞きませんよね。
なぜ『くるみ割り人形』の王子には名前があったりなかったりするのでしょうか
その謎を紐解いてみたいと思います
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原作であるE.T.A.ホフマンの “くるみ割り人形とねずみの王様” では、ドロッセルマイヤーおじさんの甥っ子がネズミの女王の呪いでくるみ割り人形の姿にされてしまいますが、マリーの手助けによりネズミの王様をやっつけて『人形の国の王子』となります。
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Y.ブルラーカによるイワノーフ版の復刻バージョンでは、
くるみ割り人形=お菓子の国の『コクリューシ王子』🤴
ドラジェの精は女王(王子の母)という設定です←vol2に続きやっぱりこれはマカロン(笑)
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ワイノーネン版でもくるみ割り人形に姿を変えられてしまった王子という設定は同じですが、このバージョンでは原作同様に『人形の国の王子』となっています
ディベルティスマンも各国の人形たちという設定ですね
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ピーター・ライト版では、ハンス・ペーター(ピーター)というドロッセルマイヤーの甥が登場します
くるみ割り人形に姿を変えられていたのは『ハンス・ペーター』、王子は同一人物ではなくお菓子の国の騎士『コクリューシ王子』という設定です
ワジム・ムンタギーロフ ロイヤル・バレエ団
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グリゴローヴィチ版では、
マーシャ=ドラジェの精
くるみ割り人形=王子
と、それぞれ1人のダンサーが踊り、第2幕はワイノーネン同様に「人形の国」という設定です。
王子のVa: S.チュージン(ボリショイ劇場)
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ちなみに、、、
プティパからチャイコフスキーに送られた作曲指示書の中では、パドドゥを踊るのは『ドラジェの精』&『優しい王子』と記されていますが、スコア(楽譜)ではその記述はなくなります
チャイコフスキーさん!!そんな勝手に変えちゃダメじゃない
と思うところですが、、、
ヴァリエーションについては、作曲指示書の時点から「男性舞踊手の為のVa」「女性舞踊手の為のVa」となっていて、どこにも誰が踊るのか記述されていなかったようです。
その為、辻褄合わせのようにパドドゥのスコアタイトルからも誰が踊るのかが明記されなくなったと予測されます
その後、ドラジェの精はバレエ作品に先立って組曲が発表される際に分かりやすくする為にか、スコアタイトルに“ドラジェの精のヴァリエーション”と表記されるようになっています
いろいろ不明瞭な点が多かったと予測される指示書ですが、もしかしたら私達の知っているドラジェの精や王子のイメージ自体が当初のプティパ氏のイメージとは違うのかもしれません
“少女の夢の中の世界”ということであえてふわっとした枠組みになっていたのか、はたまたプティパ氏の単なる確認漏れなのかは今となっては想像するしかできませんね
兎にも角にも、どんなバージョンの“王子様”を踊る場合でも忘れてはいけないポイントを押さえておきましょう☝️
お菓子の国/人形の国の違いがあっても少女の夢見る“おとぎの国”の王子様であること。
プティパの作曲指示書に記載されていた通り“優しい王子”であること。
今年のクリスマスには、音楽性豊かで正確なテクニックと優しさが醸しでるような王子様がたくさん現れますように✨✨
RBLJ長田聖良