前を向いて歩け




「お前のせいでこんなことになったんだよ!」



俺が収録で集まるのが遅れてしまったせいで

話はすごく進んでいた。


何か重要なことがあったようで

狭い楽屋の中には火花がチリチリと痛い。




「お前ら、何があったんだよ。」



空気が乾ききっていて重いのは見ればわかる。

だが、事情を聞かねばいけないことくらい察することができた。

そこで俺(中丸)はいがみあっている中心に立って声を張り上げたのだった。





「中丸、俺KAT-TUN抜けるから。」



いつもふざけてばかりの聖の口から

重い言葉がもれる。



いつもの冗談。

俺を笑わせようとしてるんだな。


大丈夫。

これは何かのドッキリだ。


そうに違いない。

そうであってほしい。




「どう責任取ってくれんだよ。」



いつもは冷静な亀梨和也。

彼もおそらく気が動転してしまっている。

目をキリっとつりあげて

まるで襲い掛かるような表情で聖を見ている。



嘘じゃない…

聖の言っていることは本当だ…




俺の目が潤む。

泣きたい気分じゃないはずなのに潤んでしまう。



「お前が泣いてどうする、中丸。」



聖にバカにされたような言われ方をされて

心が少し楽になって目が乾き始める。


上田は重い空気についていくことができず

下をずっと向きながらスマホをいじっている。


田口はドラマの収録のため台本を読みこんでいる。





それから数時間沈黙が続く。

俺は何か話をしないといけない気がして口を開いた。



「もうラップは聴けないのか?」



俺は聖のラップが好きだ。

メンバーの誰よりも上手いし俺の憧れている面でもあった。


それが失われるのが辛い・・・







「俺が抜けたらやっていけないような奴らじゃないだろ」



ふと出た言葉を誰も聞き逃さなかった。

聖の言葉には湿り気があってどこか切ない気がした。


聖は本当は俺たちと一緒にステージに立ちたい。

まだまだ活動を続けて行きたい。


そんな思いが詰まっている言葉だった。




「責任、ちゃんととれよ・・・」


「やめることが、責任っつーもんだろ!」


「それじゃあ、俺たちに対してだけだろ、たりねえよ!!!!」


「じゃあ、何すればいいんだよ!!」


「残されたファンのために何か考えとかねえのかよ!!!!」




2人が立ち上がって言い合い、亀は聖を黙らせた。


KAT-TUNを応援してくれるファン。

田中 聖を応援してくれるファン。


いったいどういう思いを胸にこのことを知らされるんだろう。



「聖、何か言えよ。」


それまで黙っていた上田が口を開く。

上田の瞳はどこか寂しく、切なげだった。




「聖がいないKAT-TUNはKAT-TUNじゃなくなるのか?」


俺は勝手に口が動く。


「聖がいないだけで俺たちは活動できなくなるようなちっぽけなのか?」


上田が目をまんまるにして。

亀がどことなく真剣な顔をして。

田口もいつの間にか台本を鞄にしまっていた。


「・・・違うんじゃないかな。」


田口がぽつりとつぶやいて


「KAT-TUN、頭文字って意味だけじゃないだろ。」


聖も吐きだすような声でつぶやく。


「赤西が抜けたとき、俺らはまた別の新しいKAT-TUNに生まれ変わった。」


亀が皆を交互に見ながら述べる。



「なあ、俺が抜けても『KAT-TUN』を守ってくれるんだろ、中丸。」


聖が俺を見上げて問いかける。

それは答えなんか必要のない言葉だった。




「守るんじゃない、新しいKAT-TUNを4人でつくる。」


楽屋には重かった空気はどこかに行ってしまい

なんだかすがすがしい空気が流れている。





「どうせお前らじゃ俺がいないとろくに活動できねーだろーけどなっ!」



聖が皆に向かって笑みを含んだ言葉をかける。

心にもないことだって分かってるのにみんな言葉を返す。



「お前なんかいらねーっ!」


「続けてオリコンねらってやる!」


「聖のファン全部もらってくー!」


「ラップは俺が覚えてやる!」



楽屋にはいつものような笑い声が響き

俺たちが、今日会ってから初めてひとつになった。







「俺は今日でKAT-TUNをやめる。

 ただ、やめるのは男としてのけじめだからだ。

 俺はもっともっとKAT-TUNとして生きていたいと思っている。

 だが、それはかなわないから『責任』という形でやめる。

 ファンが大好きな気持ちはかわらねーし、お前らも大好きだから、

 きっとこっそりliveとかに現れてやる!!


 同じステージには立てないわけじゃない。

 俺もKAT-TUNじゃなくて自分だけの力で上に上がってくる。

 どんな騒ぎを起こしても必要とされるだけの存在になってやるから首洗って待ってろ!!」




これは聖の思っていること全部だった。

芸能人だからって普通の人と同じことができないのは嫌だ。


普通でも禁止されているようなことだったとしても

一度きりの人生だからどう生きるかはその人次第だと思う。



俺はまわりを気にしないで生きている聖が少しだけうらやましかった。





そうして聖が事務所をやめる日が来た。

俺たちは1人かけることなく集まって見送ることにした。


お前らバカだろ、って笑う聖が見れたときにはすごく切なかったけれども

嬉しい気持ちもいっぱいだった。




俺たちは新しいKAT-TUNとして生きていく。

これからの将来に小さな不安と大きな期待を胸に進んでいくことを決めた。






きっと俺たちなら大丈夫。


これからも応援してくれるファンに感謝して


4人でしか見せられないKAT-TUNになって会いに行きます。







                              END