H2のブログ

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突然の春雷。



例の如く犬がうろうろし始めた。

大きな音が怖いのだろう。


「こわくない、こわくない。

 家の中だから大丈夫、大丈夫。」


側に寄って体をぽんぽんとした。



それでもキョロキョロと

何処あてなく神経を昂らせている。



扉の向こうが気になるようにしゃがむ

犬の背後に座って抱き寄せた。


忙しなく浅い息。

どこもかしこも筋肉が固くなって

ばらばらに小刻みに震え続けている。

体中から不規則な動悸が伝わる。



表情は少し見開いた瞳以外は

いつもとそれほど変わらないのに。

ふさふさの毛並みの上からは

体の変調は何も分からないのに。



怖くないなんてことはないよね。

これほどまでに‥。


「こわいね、こわいね。

 でも大丈夫、大丈夫。

 パパがそばにいるよ。」


全身を順々にさすりながら

ゆっくりゆっくりと筋肉をほぐした。


やっと両脚の間に寝そべってくれた。


首の後ろを筋に沿って指圧した。


やっと頭を床に下ろしてくれた。

しばらくすると目をつぶって息を吐いた。



 あぁこんなに怖かったんだね。

 ずっとずっと何年も何十年も

 あなたは独り怯え続けて

 体も心も一杯に張り詰めてきたんだね。

 誰も助けてくれなかったね。



僕もそのまま犬の横に寝そべって

彼女の体温を感じながら抱きしめた。



 愛しいね。

 あなたはとっても愛しいね。


 あなたが家に来た時

 僕はほとんど壊れかかっていたから

 こんなに優しくしてあげられなかったね。


 ごめんね。

 あんなに小さくて可愛かったのに。


 ごめんね。

 これまでありがとうね。



雷鳴が聞こえなくなって

いつしか犬は寝息を立て始めた。


表に出ると

雲間に三日月が輝いている。

しっとりと濡れたアスファルトには

さっきまで散り残っていた桜の花びら。



 あぁあぁ悲しかったね。

 あぁ悲しかったね。


 あぁあぁ怖かったね。

 あぁ怖かったね。


 世の中は怖いところだったね。


 あぁ苦しかったね。

 苦しかったね。


 泣けなかったね。

 怒れなかったね。

 喜べなかったね。

 声を上げたらもっと怖くなるからね。


 嫌なことから逃げられなかったね。

 好きなことを選べなかったね。

 黙っていないと我慢が足りないからね。

 黙っていれば無視に気づかないからね。

 

 あぁあぁふざけんなだね。

 あぁふざけんなだね。


 あいつらはみんな恐ろしかったね。

 虐めも無関心もどちらも恐ろしかったね。

 どちらにも鞭打たれたね。


 それでも頑張りが足りなかったね。

 どう頑張ればよかったのかな。

 ばかばかしいお話だよね。


 あぁ貧しかったね。

 貧しかったね。


 金も心も貧しかったね。

 どちらが先か分からないね。


 あぁ気がつかなかったね。

 気がつかなかったね。


 これほどまでに傷んでいたこと。

 これほどまでに歪んでいたこと。

 我も彼もが。



止まない動悸、肋間神経痛

浅い息、過覚醒、不眠。

突然浮かぶ過去の記憶とパニック。

うつ病、自律神経失調症、複雑性PTSD。



 そりゃあ壊れてしまうよね。



健康な社会から不健康になって外れた。



不健康な心身から準健康になる‥。

幾重の偶然が重なっていただいた機会。



 あぁありがたいよね。

 ありがたいよね。

 とってもありがたいよね。



 あぁ信じたいよね。

 信じたいよね。



 信じると言うことが分かるのはいつかな。