胸の中に感じる

 

凛と張った緊張感

 

 

 

1滴の水の音さえ見逃さない。

 

そんな静寂。

 

 

 

 

 

母が、一緒に住むようになって、1ヶ月が経った。

 

 

嫁いでから、65年以上過ごした家は、昔の造りで、やたら広いけれど、気密性はなく、寝室から台所へ行くまでに2つの部屋を越し、鏡台がある部屋に行くにも2つ部屋を越し、元農家だった我が家のトイレは外にあり・・・

 

父が入所したことで、初めてそんな家で、母は、1人で過ごした。

 

来る日も来る日も、部屋の片づけをし、処分をし、我が家へやってきた。

 

 

 

今、母は、小さいキッチンとトイレと8畳の和室がある部屋で毎日を過ごしている。

 

昼頃からは、よく日の当たる部屋で、山が見え、夕日が山に沈んでいくのを見ながら過ごしている。

 

 

 

好きな時間に起き、洗濯や掃除をし、朝食と昼食を作り、今日の夕食は何かなぁと楽しみにしながら、私たちと一緒に夕食を食べる。

 

 

新しい趣味を見つけ、ケラケラと笑う。

 

 

 

上げ膳、据え膳で、一度でもいいから過ごしてみたい。

 

89歳になって、ようやくその夢が叶った。

 

 

 

 

毎月通う内科での血液検査は、どんどん良くなり、正常値になった。

プレドニンも、徐々に減らしていっている。

高かった血圧は正常になり、手のしびれはなくなり、体重は1㎏増え、快便になり頻尿がなくなった。

 

 

 

実家にいた時に感じた、込み上げるような不安は無くなり、何も考える事がなくなったと言う。

 

 

 

母が引っ越ししてきた翌日が、母の89歳の誕生日で、さつまいもを使ったバースデーケーキを作ってあげたら、

 

「自分の為のケーキなんて、初めてだ。」

 

と、涙を流しながら、ケーキを食べてた。

 

 

 

母は言う。

 

「こんな幸せな生活ができている事が、夢のようだ。」 と。

 

 

 

 

私の胸に感じる、

 

この、凛と張った緊張感を説明するなら、この母の感情と同じと言えるのかもしれない。